宇宙混沌
Eyecatch

第7章:魔法を覚えたジータちゃん


「僕はあれを喜ぶべきなのかな?」
 アオイドスの演奏が終わり、観客が割れんばかりの拍手をする中、ドランクがそう呟いた。
「いや、そもそも彼に対して喜ぶとか僕にはもう出来ないんだけど、そうじゃなくて」
「ドランク?」
 何を言っているのか良く解らないのはスツルムも同じようで、低い位置から彼の顔を見上げた。ドランクは話す事を纏める為に、一息入れてから再開する。スツルムに聞こえやすい様に腰を屈めた。
「実は僕、何年か前に彼に会った事があるんだ。でも再会した彼は記憶を失っていた」
 スツルムは無言で続きを促す。
「でも彼は、そうやって何もかもを失って生まれ変わったからこそ、ああやって光の下で輝けるようになったんだと思う」
「ドランク……」
 アオイドスがアンコールを求める観客に向かって微笑む。こうして見ると、本当に見惚れちゃうくらい綺麗。溢れんばかりの歓声を受けたアオイドスはラカムとビィを振り返り、持ち歌を演奏できるか確認した。
「OK! 一曲だけの予定だったが、君達の期待に応えよう。『Judgement Night』!」
「僕の憶測だけど、きっと彼は記憶を取り戻さない方が幸せだ。だとしたら、僕も――」
 ギターの音が鳴り響き始める。アオイドスの言葉に被さったドランクの言葉は、最後までは聞き取れなかった。
 ただスツルムには聞こえる声量だったようで、ドランクが話し終えて腰を伸ばした後、彼女の肩が震えるのを私は見てしまった。

「Thank you!」
 結局三曲も歌って、これ以上港の一角を占拠する訳にはいかなかったのでアオイドスがステージを降りた。観客が散り散りになっていく中、私は意を決して二人に声をかける。
「スツルム! ドランク!」
 驚いた二人の目が私を見る。スツルムは慌てて目の辺りを拭った。
「団長さん。素敵なライヴだったね」
「でしょー? ラカムも昨日一日中練習してたんだよ。これから舞台と楽器を片付けたらご飯食べるんだけど、二人もどう? 私達、昼過ぎには発っちゃうから」
「うんうん、喜んで~」
 スツルムも頷く。
「じゃあ、グランサイファーの前で待ってて!」
 私はそう言うと、舞台を片付けるのを手伝いに行く。
「三曲もやるとは思ってなかったぜ……」
 私の姿を見つけたラカムがそう漏らした。指先が痛いのか、手を振っている。
「ちょっと貸して」
 私はその手を取って、覚えたばかりの回復魔法の呪文を唱えた。
「どう? 痛くなくなった?」
「あ、ああ……。お前いつの間に魔法なんか」
「ドランクが本を見繕ってくれてね。解りやすい本で昨日全部読んじゃった」
「へぇ、得意なもん見つかって良かったな」
 言葉はそう褒めてくれたのに、ラカムの表情はどこか曇る。
「ドランクか……」
「どうしたの?」
「何でもねえ。ほら、俺は舞台をバラすから、ベース持って帰ってくれ」
 ラカムは肩からベースを外す。私は首を傾げつつも、言われた通りそれを彼の部屋まで運んだ。

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