第7話:魔法を覚えたジータちゃん [3/6]
本編
「アカイドス! また違う音を鳴らしたな」
「……ったく、俺はまだ通しで弾くのは二回目なんだよ」
明日のゲリラライブに向けて、アオイドス、ラカム、ビィの三人(人?)は練習室に籠っていた。私はただの見学。
「しかも閉め切ってて暑いしよ……」
「ごめんね。でも窓開けると音が漏れて迷惑だから」
私は言いながら、ラカムに氷水を注いであげる。ラカムはお礼を言って飲み干した。
「良いだろう。まだ時間はあるし、今回は突然の話だからな。だが、最高のパフォーマンスを見せるという努力を怠るのは論外だ。金を取らないライヴであっても、ファンを失望させるわけにはいかない」
アオイドスも夏は相当堪えるのか、普段の重厚な衣裳を諦めて薄手のシャツで練習していた。髪を纏めて露わになった首筋には汗が光っている。私は彼にも水を注いで渡した。
「わかってるって」
ラカムはベースを抱え直す。
「最善は尽くすからよ」
あつい。そう思ったのは、本当に室温の所為なんだろうか。
私は気を紛らわす為に、昨日買った魔法書を開いた。
「ある日俺は、踏み出す度にいつもと違う感覚がする事に驚いた」
この島への滞在三日目。午前中にDOSSのゲリラライヴは始まった。許可を取って港の一角に作った仮設舞台の上で、アオイドスが聴衆に語りかける。
「このまま駆け出せばどうなるのだろうという好奇心が湧くものだった。俺は勿論、そうする事を選んだ」
MCを聞きつつ、私は観客を見回す。その中に青いうねった髪を見つけて、そっと人々の間を縫って近付いた。
「だがどうした事だろう、俺はすぐに転んでしまった。軽薄な行動に神が罰を下したのか? ならどうして俺をそんな気分にさせたんだ?」
私はドランクの後ろに着くと、隣にスツルムがいる事も確認した。この人混みで、二人は私がすぐ後ろに来た事には気付いてないみたい。
「心配したマネージャーが手を差し伸べて俺を起こしてくれた。そして言ったんだ。『靴、左右逆じゃないか?』ってね」
「スツルム殿、本当にあの人のファンなの?」
えっ、スツルムってアオイドスのファンなの? 意外!
「黙って見てろ」
「……この世界は残酷だ。俺達を追い立て、切り裂き、嬲り続ける」
その言葉に、ドランクのピアスが揺れた。
「――OK! 俺と世界を滅ぼさないか?」
アオイドスが新曲のタイトルを叫ぶ。直後にビィの尻尾が激しくドラムを叩いた。出だしを苦手にしていたラカムも、なんとか遅れずに追随して、ほっとする。
熱狂する観客達。スツルムがファンというのは本当らしく、前のめりになって耳を傾けていた。ドランクはその隣で、ただ大人しくライヴが終わるのを待っていた。
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