第7話:魔法を覚えたジータちゃん [2/6]
スツルムとドランク
ドランクは土産を手にグランサイファーを降りる。港には乗り合い騎空艇の、本日の最終便が停泊していた。
「ドランク」
ぼんやりとそれを見ていると、聞き慣れた声がその名を呼んだ。振り返れば、赤毛のドラフの剣士が立っている。
「スツルム殿。予定より早かったね」
「ギルドに居ても、ドナに雑用を押し付けられるだけだからな。お前こそ何故港に居る」
「団長さんに雇われてね。仕事終わり」
グランサイファーを指差したドランクが答え終わるのを待たず、スツルムは彼に近寄るとその匂いを嗅ぐ。
「また煙草吸ってただろ」
「まぁね~。って、いででいで、ぐりぐりするのはやめてっ!」
スツルムが剣先で一通りお仕置きした後、宿へと向かう。スツルムはドランクが手に持った包みを気にしながらも、部屋に入るまでは問わないでいた。
「晩御飯食べた?」
「まだだ」
「じゃあ荷物置いて一緒に行こう」
ドランクは包みを机に置く。興味津々な視線に気付いたのか、ドランクの方から説明を始めた。
「団長さんに頼まれて絵のモデルをやってたんだ。描いた後に魔法で小さく転写してくれてね」
ドランクは包みを解き、中に入っていた色紙を取り出す。スツルムは絵を見て怪訝そうな顔をした。
「青いのはドランクだな……」
絵柄が個性的で、モデルを聞いていなかったら何の絵なのか判らないところだった。裸のドランクと、あともう一人、赤い長髪の誰かも描かれているようだ。
「赤いのはアオイドス君って言ってね」
「アオイドス!?」
スツルムが突然食い気味に尋ねた。
「アオイドスに会ったのか!?」
「え、うん。知り合い?」
「知り合いではない」
興奮した事が恥ずかしくなったのか、スツルムは口調を戻して顔を背ける。しかしその表情は複雑だ。
「……もしかして、ファン?」
ドランクは彼女が音楽好きだった事を思い出した。無言は肯定である。
「それなら、明後日にライヴをやるって言ってたよ。新曲だって」
「え、何処で?」
「此処で。あ、人が集まりすぎるとまずいから、話は広げないでねって言ってた。明日には発つ予定だったけど、ライヴの後にしようか。別に急ぎの予定も無いし」
スツルムは嬉しそうな表情でこくりと頷く。
「そうしてくれるとありがたい」
「じゃあそれで決まり~。ご飯行こ」
絵を置いて、宿を出る。道すがら、ドランクは呟いた。
「それに、団長さんも居るもんねえ」
それを聞いたスツルムは、意味深な顔で頷く。
「……仕事、楽しかったか?」
「苦ではなかったよ」
「アオイドスの事は?」
どう思った? その問いに、ドランクはどう答えたものかと迷う。結論、今彼女に事実を語るのは興醒めにしかならないだろう。
「ああいうサラサラした髪も良いよね~。僕のおばあちゃん譲りのボリューミーヘアも気に入ってるけど」
「……そうか」
それきりスツルムは黙る。ドランクは意に介さず、酒場の扉を押し開けた。
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