灰皿に押し付ける場所がなくなって苛立った。
「クソッ」
中身を屑籠に流し込み、また一本取り出す。
天井へと上る途中で消えていく煙を見ていると、益々焦燥感が募って良くない。俺は意識的に目を逸らす。三十路を過ぎた男の顔が窓に反射した。
「……成人式か……」
行方不明になったのがドランクなら、皆此処まで心配するだろうか。カタリナなら? きっとしないだろう。
それは戦闘能力の高さに信用があるからじゃねえ。奴等が大人だからだ。
何の連絡も無しに居なくなれば、そりゃあ心配もする。だが、もしかしたら急用が出来たのかもしれない、とか、たまには羽目を外したくなったのかもしれない、とか、なんだかんだ多少は安心出来るような理由を誰かが言い始める。
大人はそれらが許されている。自分の意思で行動する自由と責任を持っている。
はっきり言や、そもそも俺達はジータの保護者じゃねえ。それでもあいつが未成年故に俺達の行動が制限される様な事があれば、代わりにサインをする事だってあったんだ。その分くらいは説教したって罰は当たらねえよな? まだ。
「まだ……いや、もう、か」
ジータが大人になったら、もうあいつを止める事が出来ねえ。酒を飲むのも、煙草を吸うのも、夜遅くまで遊ぶのも――誰にも、俺にも。嫌だと言って喚くのは勝手だが、その感情に強制力はない。
俺は煙草を噛んだ。まるで支配下に置いておきたいと言う様な考えに、自分で辟易する。
早く帰って来いよ。そうしたら俺の手の届かない事に焦り悩む事から、束の間であっても目を逸らせる。
大人になるまで待つ事は、容易かったのにな。