宇宙混沌
Eyecatch

第5章:霧の外 [4/4]

「前に来た時の面影もなくなりつつありますね」
 ジータが演技をしたまま、ドランクに言う。前に来た時、というのは、まだ再開拓が進んでいなかった時、つまり私と出逢った時の事だろう。
「栄えるのは良い事じゃないか。利便性が良くなればフェリシアを一人残しても安心だ」
 ドランクも貴族の旦那らしい口調で、やや聞こえよがしに言った。一際高級そうな服を着こなした若い男に、やや大きいがその娘と思われる少女。それから流行の最先端を行くメイド服を着た侍女の三人組は、黙って歩いていても周囲の目を惹いた。
 いつ用意したのか、ドランクは懐から高級そうな葉巻を取り出す。小道具の準備にも抜け目無し、か。
「ド……お父様、葉巻はお体に良くありません」
「フェリシアもすっかり母親に似てきたなあ」
 どっちの? 実母という設定のロゼッタのキャラは小言を言う感じじゃないし、カタリナが演じている方かな。っていうか演技にボロが出そうなアドリブはやめてくれ。
 ドランクは葉巻を戻し、通りを見渡す。
「昼食を食べて帰ろうか」
「え、でも、屋敷に用意されて……」
「たまには良いじゃないか」
 そのまま強引に、ドランクは私達をある店へと連れ込む。一般的な大衆食堂だ。私達は相当浮いた。
「面白いね。色々な地方の料理が集まっているよ」
 ドランクはメニューを私に見せ、それぞれの説明を始める。半分は、高級料理しか食べた事が無いであろう令嬢に対する演技だ。しかしもう半分は普通に為になった。実際、知らない料理も沢山あったから。
 ドランクは野菜と鶏肉のサラダを、ジータは肉の焼き料理を頼んだ。私は米と様々な具材を混ぜて炒めた料理を頼む。
 スプーンを握って、ふと気が付いた。私、いつから実体を持つようになったんだろう。
 気付けば買った服に着替える事が出来たし、ジュースを飲んだりご飯を食べたりして……セレストとの一件が終わってからかとも思ったが、それより前からピアノを触ったりは出来た。もしかして、私は幽霊ではない、のだろうか。いやでも、他の幽霊にも触れるし……。
 まあ良い。星晶獣の力で、この世界では異質な存在になってしまったんだ。生きていた頃の常識で説明できるなんて期待しない方が良い。
「異質な存在、か……」
「何か仰いました?」
「う、ううん。別に」
 慌てて首を振る。
 別に、生きてた頃からそうじゃなかったか? 私はいずれ領主になるんだ、貴族なんだから、って……。
「なかなか美味しかったね」
 食事を終えて、店を出る。その後は丘の方へ歩き、村のはずれに来た所でジータが尋ねた。
「あのお店に決めてらしたように思うのですが、何か気になる事でもございましたでしょうか?」
「ああ、先日うちを訪ねて来た人達が居るのが見えてね。会議所の件がどうなったのか気になって」
「そうでしたか。でも、盗み聞きは良くありませんよ」
「心掛けよう」
 今度は私が尋ねる。
「結局、会議所の件は?」
「この辺りの畑を潰して建てるそうだ。見ての通り、肥沃な大地、という訳でもなさそうだし、このくらいの距離にある方が使いやすいだろう」
「そうですね」
 そう。この島の畑では必要最低限の作物しか採れなくて。今なら輸入に頼る方が安価だし安定しているだろう。
 生まれた時代が違っていれば、或いは生まれた場所が違っていれば。そんな事ばかり考えてしまって、気分はすっかり憂鬱になっていた。

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