宇宙混沌
Eyecatch

第5章:霧の外


「まだ一週間かー」
 カバーを付け替えたソファーに寝転がり、団長さんが漏らした。
「なぁに? もう飽きちゃった?」
「流石に体が鈍るー」
「村の方まで遊びに行く?」
 僕の提案に、団長さんは目を見開く。
「え、良いの?」
「そろそろフェリちゃんの顔を、村の人に覚えてもらわないとねえ。僕と三人で物見遊山の体でいこう」
「誰か来た時の応対は任せてくれ」
「カタリナさん、頼りになる~」
 さて、フェリちゃんを呼びに行こう。と言っても、ピアノの音が響いているから探すまでもない。フェリちゃんには、村人に娘が弾くって言っちゃったから、と、一応毎日何かしら弾くようにお願いしていた。
「ずっと同じ曲を弾いているな。何という曲だったか」
 僕が曲名を答えると、それだ、とカタリナさんは微笑む。
「好きなんだろうか」
「どちらかと言うと嫌いだと思う」
 僕の推測には首を傾げられる。当然か。
「多分、言わずとも気付いてくれたんじゃないかな」
 これもカタリナさんを困惑させるだけだな。そう思ったけど、僕はそのまま立ち上がって部屋を出た。

「あっ」
 また弾き間違えた。魔力の流れが途切れる。
「また最初から……」
 楽譜にして十ページ近くある曲だ。一度通しで弾くのも大変なのに、そもそもミスなく弾く事が出来ない。
「お困りの様だねぇ!」
「ドランク……」
 いつのまにかピアノの縁に肘を突いている。どいつもこいつも。傭兵は忍び足が得意なのか?
「何しに来た」
「つれないなあ。気晴らしに村までお散歩に行かない?」
「行かない」
 再び鍵盤を叩こうとして、楽譜を閉じられる。
「そろそろ村人に顔を覚えてもらわないと困るよ」
 冷たくそう言われ、私はやれやれと鍵盤の蓋を閉じた。
「そんなに意味があるのか? 私を覚えてもらうって」
「そりゃ、フェリちゃんが此処に帰って来る度に僕も同伴する訳にはいかないからねえ。見知らぬ子供が空き家に一人で居たら怪しまれるでしょ。知り合いだったらともかく」
「私は歳を取らないんだぞ? 大丈夫か?」
「フェリちゃん大人っぽいし、十年くらいは誤魔化せるよ」
 その後の事はその時考えよう。と暢気に言って広間を出て行く。私もその後を追うと、ジータが荷物を持って待っていた。
「荷物持ち~。ささ、お嬢様、足元にお気をつけあそばせ!」
「ペット達は連れて行けないぞ、フェリシア」
「此処から演技していくのか……」
 はあ、と溜息を吐く。気晴らしどころかストレスが溜まりそうだ。

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