第5話:美男を脱がせたいジータちゃん [7/8]
イケメン談義
「団長さん、連れてかれちゃったねえ」
くっくっ、とドランクが喉を鳴らす様に笑った。
「俺の美しさは罪だからな……幼気な少女には刺激が強いだろう」
アオイドスもその下で寝転んだまま、いつもの調子で返す。ルナールは黙って二人の体の線を写し取っていた。
「ところで、その背中の傷、刃物で突き刺されたみたいだねぇ。熱心すぎるファンにでもやられたの?」
「いや……何処でどうやってついた傷なのか、覚えていない……」
アオイドスはドランクに境遇を話す。
「なるほどねえ」
ドランクは体勢を崩さないまま、妙に納得した表情を見せた。
「記憶を失っても、パトスはある、か……」
「そうだ、スカイドス。君の演奏には一切のパトスが無かったんだ」
熱がこもった様に言われてドランクはドキッとしたが、そう簡単に狼狽えを外に出したりはしない。
「君の言動は全て理性の上に構築されている。表情も全て計算尽くだ」
「そんな演奏をする人間を、どうしてバンドに誘うんだい? 君の音楽性とは真反対だと思うけど」
「だからこそさ!」
熱くなったアオイドスが頭を浮かせる。モデルをしている最中だったと思い出し、すぐにまた長い髪の上に頭を下ろした。
「譜面通り正確に演奏する技術も勿論凄いさ。だがそれ以上に、演奏者の感情が無い、という事は、聴衆が思い思いの感情をその音の中に感じ取れるという事だ。同時に、伴奏の場合はメインヴォーカルが乗せる感情の邪魔をしない。主役を支える脇役としては最高だ。君のライヴを見てそう思った。俺には無い才能だ」
「才能だなんて……」
「衝動と名乗っているのだったか? 全く、君自身とは正反対の名前だな」
ドランクが突然、声を上げて笑った。アオイドスは目を見開き、黙って会話を聞いていたルナールも驚いて手を止める。
「いや、言い得て妙な名前で、僕は気に入ってるよ」
ドランクはかつて衝動的に取った行動を思い起こす。
「口説いてもらって嬉しいけどねえ、アオイドス君。僕の本業は傭兵で、相棒も居るんだ。だから君のバンドに入る事は出来ないよ」
「そうか……残念だ……」
聞き分け良く引き下がったが、心底残念そうに表情を曇らせるアオイドスに、ルナールが声を掛ける。
「新曲が出来たんでしょう? ジータは明後日くらいまでこの島に留まるって言ってるし、ゲリラライヴでもしてお披露目したらどうかしら?」
「それは良い考えだ! 今回のベースの譜面はシンプルだから、アカイドスも一日あれば十分だろう。ドランク、君も是非聴きに来てくれ」
「勿論」
ドランクは笑みを作った。
「スツルム殿が戻って来たら、彼女も連れて来るね」
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