第5話:美男を脱がせたいジータちゃん [6/8]
アオイドスを待っている間、ドランクは険しい顔をしていた。
「どうかしたの?」
「……いや、何でもないよ」
そう言うといつものへらへらした笑顔に戻る。何でもなくはないと思うんだけど、ドランクの事だし、何かに気付いていてもタダじゃ教えてくれないか……。
「待たせた」
昼食を終えたアオイドスがやって来る。早速ルナールは嬉々としてディレクションを始めた。
「出来る範囲で構わないわ。こう、お互いの距離を近く」
「アオイドス君ってこういうのイケる方なの?」
ドランクが彼の肩に腕を回しつつ尋ねる。
「君の様に清潔感のある人間なら問題は無いさ」
アオイドスもドランクの腰に手を回す。
着衣なのに普通にいかがわしい。ルナールを呼んでひそひそと相談を始めた。
「あの調子だともっといけるんじゃない?」
「脱いでって言ったら応えてくれるかしら?」
「体の構造をデッサンする為に、とか色々言えば少なくともアオイドスはいけそう。プロ意識高いから理解してくれるはず」
「ドランクの方は既に上半身半裸みたいなものだしそれで良さそうね」
「……ところで、ルナールはどっち派?」
その問いに、心得たりと言った顔でルナールは答える。
「そりゃ勿論、ドランクが上よ」
「くっ……」
私とは逆カプ……。
「え、嘘、ドランク受け派?」
「体格良い方が受けのが刺さるのよね……でも、今回はルナールの練習だしそっちで……」
って、振り返ったら既に二人は勝手に脱ぎ始めている。
「ちょっ、ちょ!」
目に毒――いえ、眼福です。
「え、どうせこういう絵を描きたいんだと思ってたんだけど違うの?」
「合ってるわよ」
どうやらアオイドスにはドランクから説明したらしい。アオイドスはシャツのボタンを外しつつも、困ったように眉を下げる。あ、マネージャーアウトが出ちゃうとか?
「肌を見せるのは構わない。だが、俺の背中には大きな傷跡があってね。目汚しにならなければ良いが」
「騎空団に居るんですもの、見慣れてるわ。傷は描かないようにするわね」
ルナールはそう気遣うと、そもそも背中が見えない様に、ドランクがアオイドスを組み敷く形のポーズを指定した。
「下は脱がなくて良いの?」
ドランクが確認する。
「今回は上半身だけの構図にす――」
「おーい、ジータ、さっき捕まった時に工具を落としたみたいなん――」
ルナールの声は気怠そうな男の声に遮られた。背後、部屋の扉の所からかけられたその声も途中で途切れる。
「やあアカイドス」
「君の代わりは見つかったよ。安心して昼寝してて大丈夫」
朗らかな声を出したのはモデルの二人だけだ。ルナールと私は背中に感じる殺気に身動きが取れない。
「ルナール?」
ラカムの叱責はまずこの部屋の主に向けられた。
「あんまりいかがわしいもん子供に見せんなって言ってるだろ!」
「い、いかがわしくなんかないわよ! 上半身裸くらい貴方だってたまにやってるじゃない!」
「このポーズは色々と駄目だろ! 大人のお前が参考にするのは構わねえが、子供を巻き込むんじゃねえ」
「えっ、うわっ、ちょっと! ラカム!」
油断していたらひょい、と肩に抱え上げられて、そのまま部屋の外に連れ出された。
「ちょっと! 下ろしてよ~」
逆さまの状態で大きな背中を叩く。
「工具探すの手伝えよ?」
「わかってるわかってる」
ラカムの手が私の腰を掴んで、ゆっくりと廊下に下ろした。
「あーあ、折角イケメンを眺められると思ったのに」
「あれはお前にはまだ早い」
「ラカムはそうやっていつも子供扱いする!」
「まだ俺の半分くらいしか生きてねえだろ」
私は肩を落とす。それはそうなんだけどさ。
名残惜しいのでルナールの部屋の扉を一瞥した後、私はラカムの探し物と、整備を手伝う為に彼の隣に並んだ。
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