第5話:美男を脱がせたいジータちゃん [5/8]
「ごちそうさまー」
昼食を終えた後も、私達はモデルを選定する為に食堂に居座っていた。人が増え、そして減っていく。
「意外と良さそうな人居ないわね……」
「はは、結構な大所帯だと思ったんだけどなあ……」
そもそもこの騎空団、男女比に偏りがあるのよね。私ももっと良い人スカウト出来るようにならないとなあ。
「ん?」
突如、ドランクのピアスが揺れる。ある方向に彼の耳が向いたからだ。
「今の声、何?」
「何か聞こえた?」
「高い男の人の叫び声。距離的には、この艇の中だと思うけど」
ルナールは首を傾げる。私は思い当たる節があったので、手をポンと叩いた。
「そうだ、アオイドスが居るじゃん」
「アオイドス?」
「ルナールが館詰めしてる間に仲間になったの。少なくとも見た目はルナールの好みだと思うし、色合い的にもドランクと対照的で映えそう!」
私は二人を立たせると、アオイドスに与えた練習室へと案内した。
「Ahhhhhhhh――――……ッ!!」
「アオイドスー?」
邪魔しちゃ悪いかな、と思いつつも、昼食も忘れて熱中しているのは体に悪い。時間を思い出させる為にも、敢えて声をかけた。
「やあ、ジータ。おっと、もうこんな時間か」
アオイドスはギターを掻き鳴らす手を止めると、私ではなく時計に振り向く。
「調子良さそうだね」
「ああ。一曲書き上がったところだ」
「じゃあ、ご飯の後ちょっと頼みたい事があるんだけど……」
私は念の為ルナールの顔色を窺う。ルナールは私にだけ見えるように親指を立てていた。
「ジータの頼みだ。俺が出来る事なら協力しよう。尤も、俺に叶えられない事なんて……」
そこでアオイドスの目が見開かれた。視線の先は私の後ろに立っているドランクだ。
「君!!」
アオイドスはギターを肩から外しながら、つかつかと近寄ってくる。私がドランクを振り向くと、珍しく顔を顰めていた。
「音楽に興味は無いか!?」
おっ、またバンド仲間を増やそうって魂胆かな?
「いや、ある筈だ! 君の事はいつぞやの演奏会で見た! 確かトラモントなんとかとかいうバンドの……」
「演奏出来る事と興味がある事は一致しないよ」
そう言ったドランクは既に、アオイドスの手によって練習室の中に引き込まれ、手にギターを押し付けられていた。
「君ならギターも、いやそれ以外も弾けるんじゃないか? 聴かせてくれスカイドス!」
「スカイドスって何?」
「芸名さ。今閃いた。君は空色の髪をしているからね」
「いやそんな事より」
ドランクは困惑した目で、渡されたギターを見下ろす。
「これ、楽器じゃないよね?」
私は、そしてアオイドスとルナールも首を傾げた。
「何言ってるのよ。さっき彼が弾いてるの見たでしょ?」
ルナールが呆れた声を出す。一方でアオイドスは何かに気付いたかの様に、じいっとドランクの顔を見つめていた。
「……今度は何?」
「ああ、いや」
アオイドスは首を振って、ドランクに突き返された商売道具を受け取る。
「すまない。君の事はあのライヴ以来気になっていてね。つい興奮してしまった。食事を摂ってくるよ」
最後の言葉は私に向けられた。
「済んだらルナールの部屋に来てくれる?」
簡単に彼女と彼女の部屋の場所を説明し、絵のモデルになってくれないか尋ねる。
「俺の美貌を絵画に収めたいのか。フッ……勿論良いとも。好きなだけ見つめていろ」
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