宇宙混沌
Eyecatch

第5章:美男を脱がせたいジータちゃん


「安く揃えられて良かったわー」
「良かった良かった」
 補給物資の買い出しはカタリナ達が引き受けてくれたので、私はルナールと二人で心置きなく画材屋を見て回った。私は絵は描かないけど、色とりどりの絵具を眺めているのは楽しい。
「次はジータの買い物に付き合うわよ」
「特に欲しい物は無いから、その辺ぶらぶらして良い?」
 店を出て、市場の人混みの中を進む。今日は日差しが眩しい。洋服屋さん、文房具屋さん……うーん、今日は良いかな。
「ハッ!?」
「どうしたの? ルナール」
美男[イケメン]の気配がするわ……!!」
「えっ!? どこどこ?」
「あれ! あの背を向けてるエルーン!」
 指差された方向を見ると、何やら本や道具を売る出店に、大きく背中の開いたエルーンらしい服装の男が座っていた。客の女に言い寄られているのか、それとも無理矢理買わせようとしているのか判らないけど、長話をしている様に見える。
「エルーンにしてはマッチョじゃない?」
 ルナールは、筋肉隆々よりは細身の方が好みじゃなかったっけ?
「でも、ああ見えてなんだかとても高貴な予感がするわ!」
 私にはよく解らないけど、ルナールがそう言って近寄る。その後を追うと、彼が後ろで一纏めにしている髪が空色をしている事に気が付いた。え、もしかして……。
「ドランク?」
「団長さん」
 居座る客を漸く追い払った彼が振り向く。掻き上げた前髪、見慣れない眼帯。いつもの胡散臭い雰囲気とは違う壮健で爽やかな恰好をしているので、至近距離でも少し迷う程だった。
「え、彼が噂の?」
 ルナールが私を見上げる。
「え~。団長さん、一体どんな噂をしてるのかな~」
「な、何も変な事は言ってないよ!」
 嘘です。やましい事を沢山語り合いました。
「ていうか、こんな所で何してるの? スツルムは?」
「スツルム殿は用事でね。僕はその間、一人で仕事したり遊んだり」
「傭兵の仕事じゃないの?」
 どうやら、魔法書と魔法道具を売っているらしい。
「ここらの案件は大方片付けちゃったから、あとは報酬の良くないものばっかりでね。シェロさんがそれより割良く雇ってくれたから、今日は売り子」
 ドランクが指差す先に、忙しそうに他の商品を売っているシェロカルテが居た。
「でも全然仕事にならなくて。さっきも買う気が無いくせに居座る迷惑な人が居てさ」
 私とルナールはドランクの姿をまじまじと見た。ドランクに背を向け、少し離れて相談する。
「そりゃ、あの見た目ならナンパされるわ」
「同意。ていうか、あんな薄幸そうな美男が知り合いなら、どうして教えてくれなかったのよ! 私の好物だって知ってるでしょ!」
「顔は良いけど、いつもはもっと野暮ったいの。正直な事を言うと、今日のあの恰好、いつもの三割、いや五割増しくらいに素材の良さを引き立ててる」
 多分、暑いし戦わないし、とかそういう理由だと思うんだけど。鍛え上げられて良く引き締まった筋肉を惜しげもなく見せる、袖が無く背中の開いた服。整った顔を隠していた鬱陶しい髪を纏め上げ、いつもよりずっと品が良く見える髪型。そして何より……。
「眼帯、好きでしょ? ルナール」
「当たり前じゃない。伊達に伊達眼帯してないわよ」
 ルナールはきらきらした目で私を見てくる。
「ジータ……どうしてもあの人をモデルに絵を描きたくなったわ」
「わかる」
 私も、あのイケメンを長時間眺めていられる権利は欲しい。
 さっき売り子の方が割が良かったからって言ってた? じゃあそれよりお金を積めば良いわけね。
「おーい、団長さん?」
「はーい」
 にこにこと笑顔を作ってドランクの元に戻る。
「いや~。眼帯してたからドランクだってすぐに判らなくって」
「ああ、いつもはしてないからね。今日は前髪が汗で顔にくっつくのが気持ち悪くて」
「右目、無いって知らなかった」
「昔魔物にね。別に珍しくもないでしょ。触ってみる? 凹んでるのが判るよ」
 何処か誇らしげに提案されたけど、ぶるぶると顔を横に振る。ドランクは笑みを浮かべた。
「団長さんもこの島に用事?」
「次の目的地までの補給で寄っただけ」
「じゃあ、またすぐに発っちゃうのかな」
「ううん。ラカムを休ませてあげたいから、二、三日は居る予定」
「団長さんはしっかりしてるねえ~」
 褒められてちょっと嬉しい。けど、自分も「買う気が無いくせに居座る迷惑な人」になりかけている事に気付き、モデルの話を切り出す前に、商品を一つ手に取った。
「魔法に興味あるの?」
「うーん、何を得意にしようか悩んでるの」
 それは事実。最初はメカニックになりたいなーなんて思って、ラカムやオイゲンに銃を習ったりしてみたけど、どちらにも「向いてないからやめとけ」と言われてしまった苦い思い出を噛みしめる。
「楽器もアオイドスにセンス無いって言われちゃったし……」
「……魔法を学びたいんだったら、まずはこの本かな」
 ぱらぱらと、難しい単語が並ぶ本を捲っていた私に、ドランクは別の一冊を差し出した。
「魔法は良いよー。……人を生き返らせる事も出来るしね」
 受け取ろうとした時、ドランクが顔を近付けて、そう囁く。彼の髪の毛からは、ラカムと同じ匂いがした。
「それって、私とルリアの関係みたいな?」
「いや、全く別の原理だよ」
「へえ……。この本いくら?」
「二千ルピ」
 難しそうな本は陳列に戻し、渡された本の代金を支払う。よし、義理は果たした。
「ところで、売り子よりも割の良い仕事、しない?」

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