ピアノの音が聞こえる。向かってみると、ドランクがあの曲を弾いていた。
「フェリちゃんも弾く?」
「弾かない」
「ええ~」
「お前が弾いてれば良いだろ」
「そう思ったんだけどねえ。やっぱり僕じゃダメみたい」
「何が?」
ドランクはその問いには答えず、逆に問うてくる。
「フェリちゃんさあ、不思議じゃないの?」
「だから何が」
「僕がこの島で起こった事を、大まかに知っていた事だよ」
「……ああ、言われてみれば、そうだな。でも、どうせ私がフィラに宛てた手紙を読んだんだろ?」
「まあね。ってことはつまり、だ。フェリちゃんはかなり詳しく、あの例の医者の行動を追っていた事になるねえ」
「……何が言いたい」
「別に何も。ちょっと訊きたい事があるんだけど、その様子だとまだ全部は思い出してないみたいだし、また今度ね」
ひらひらと手を振って去る。私は釈然としないまま、椅子に座って曲を奏で始めた。が、半分ほどで弾き間違えてしまう。
「やーめた」
蓋を閉じる。今日は一日、部屋で過ごす事にしよう。