「それで、どういう事情で捕まってたんだ?」
「教えな~い」
スツルムはイラっとしたのを隠そうとしなかった。剣を抜き、ドランクの尻を刺す。
「痛い痛い!」
「いや、少しは避けろ……」
そのつもりで刺しているのだから、全く身動きされないと勢い余って怪我をさせてしまいそうだ。しかし、避けないという事は、話せないなりにその事への罪悪感や後ろめたさはあるのだろう。
「まあ良いじゃないか。無傷で帰って来たんだからさ」
珍しくドナがドランクの味方をする。ヴォルケから詳しい経緯は聞いていないが、人間、生きていればどんなに近しい相手でも話せない秘密の一つや二つ出来るものだ。今回ばかりは見逃してやろうと思う。
「まあ、それはそう、だけど……」
「本当にごめんねぇ~。来年こそはアウギュステ行って泳ごうねえ!」
「ふーん、イチャイチャとバカンスを楽しむ予定だったのかー」
「待ってドナさん、なんで急にそんな低い声出すんですか」
「ヴォルケを使った上、結局お金も寄越してくれなかったのに~? 本来の予定は新婚旅行だったか~」
「良いでしょ別に、休みなんだから! 大体、建物壊したのは殆どドナさんでしょ!」
「お前だって床びしょびしょにして――」
また喧嘩が始まる。スツルムはもう、ギルドにドランクを連れてくるのはやめようと心に誓った。
「スツルム」
機を見て、ヴォルケが声をかける。
「居場所を知らせたのにちゃんと待っていた事、偉かったですよ」
「別に……」
込み入った事情とやらが気にならない訳ではなかった。もしかすると、自分以外の女が居てそいつに会っているのかもしれない、とも思った。
でも、だったら尚更ヴォルケに任せた方が良いし、真実を知らない方が良い。自分が嫉妬深くて、スイッチが入ってしまったら冷静でいられない人間である事を、スツルムは自覚している。
「あのドランクが丸め込んだり、逆らったりできない相手が居るんだろ? あたしが行ってできる事は無かった」
自分もヴォルケやドナの様に、武器の扱い以外の事を覚えなければ。でも、自分は剣しか握った事が無い。どうしよう。
「無い事は無かったと思いますよ」
「え?」
「一刻も早く顔を見せて安心させてあげるとか、ね」
その言葉に、スツルムの心が軽くなる。彼女が頬を緩めて感謝を述べたのと同時に、また部屋の壁に穴が開いた。