宇宙混沌
Eyecatch

第2章:秘密の結婚 [4/6]

 ヴォルケは宿を取る前に、スツルムに手紙を書いた。
 ドランクは無事。――島に居る。ただ込み入った事情があるらしく、すぐに連れて帰れるかは不明。心配な気持ちは解るが、スツルムが来ても話をややこしくするだけなので、ギルドで待つように、と。あの子はドナには反抗的な時もあるが、結構自分の言う事には従ってくれる。
 手紙を出し、宿を取り、少しだけ仮眠を取る。日付が変わってから起き出した。
 とにかく広い屋敷だった。敷地を囲う高い柵には、触ると反応して警報が鳴ると思われる仕掛けも施されている。
 まるで監獄だ。勿論、本来は泥棒等を寄せ付けない為のものなのだろうが、これでは内側からも簡単には出られまい。
 とすると、通るなら正門か通用門。どの門にも一人以上の衛兵が立っている。そして、門から館までの距離が結構ある。
 雲を最大限出しても、正門から館への道を全て目隠しは出来なさそうだ。ドランクの部屋に近い通用門を教えてもらって、そこからの逃走を図るか。
 問題は衛兵だ。中にはドラフも居て体格的に一対一では勝てそうにないし、衛兵同士で応援を要請する通信手段を持っているかもしれない。ドランクが下に降りてくるまでに倒しておいた方が良いだろうが、いきなり雲が現れたら驚いて騒ぐだろう。睡眠薬でも調達しないとまずいか。
 大方気にしないといけない点を洗い出したところで、見つからない内に宿に戻る。あとはなるようになれ、だ。

「――さんではありませんか?」
 翌日、混み合うレストランのテラス席にて。ヴォルケは二人席に一人で座っている青い髪のエルーンを見つけると、その名を呼んだ。
「ええ、そうですが。どちら様で?」
「先日資金援助のお話をいただきました、傭兵ギルドのヴォルケです」
「これはこれは。お返事が無いのでてっきり断られたのかと」
「近くで別件の仕事があったものですから、直接お会いした方が早いかと思い」
「そうでしたか。混んでいますし、折角ですからご一緒しませんか?」
「喜んで」
 護衛、というか監視は店内には居ないが、道からテラス席を見張っている。怪しまれない様に意識をドランクに集中させつつ、ヴォルケは向かいの椅子を引いた。
「と言っても、実はこの後十三時から別の予定がありまして」
 言いながらドランクは、指で机を小さく叩き始めた。殆ど机の表面から浮かせないので、遠目からではその動きは見えないだろう。
「あまり長話は出来ないのですが」
 音については、話しながら叩いているのでドランクにも聞こえない。
 だが、ヴォルケの敏感な耳には、それがはっきりと聴き取れていた。バルツ公国軍の用いる通信用符号だ。
『部屋、東側、三階』
 ここまででそれだけの情報が伝えられた。ドランクは料理を切る為に、一度ナイフを持ち直す。
「いえ、アポ無しで来たのは此方ですから」
 ヴォルケも料理を注文する為にメニューを取る。メニューで通りから隠れた方の手で、同様に『OK』とだけ返した。注文を終えてから会話を再開する。
「支援していただける場合、月々幾らくらいになるのでしょうか?」
 ドランクは再び指を動かす。
「どのくらいうちの頼みを優先的に聞いていただけるかによりますね」
『鍵、見張り、ポケット』
 ヴォルケは今度は、座り直すふりをして床を靴で叩いた。
『HOW』
「そこが難しい所なんですよ」
 衛兵をどうにかする手段に困っている、という事は伝わったらしい。
「特定の集団に肩入れはできませんか?」
『薬屋、裏道、突き当たり』
 やはり睡眠薬か。市販の薬からの調合は大変だ。下手に騒ぎを起こせば、逆に衛兵の数を増やす事になるだろうから仕方ないが、なら、今監視を振り切れば良いではないか。
「そうですね。仕事の幅を狭める事になりますから」
 ここでヴォルケの分の食事が運ばれてくる。WHY NOT NOW、と次にしたい質問は少々長く、ドランクの様に悟られず叩く自信がヴォルケには無かった。どうやって訊こうかとスパゲッティをぐるぐると回していると、ドランクが懐中時計を取り出して見た。
「今は……?」
 時間を問うふりをして、直接尋ねる。ドランクも察した。時計を仕舞い、再び手を机の上へ。
「二十五分です。しかし、流石に見返りもなく投資する訳にもいきませんね」
『夕方、会う、許婚』
 ヴォルケは思わず、弾かれた様にドランクを見てしまったが、交渉の会話の内容に助けられた。ドランクは苦笑する。
「此方から言い出しておいてすみませんが、今回の話は無かった事にしていただけませんか?」
 ドランクは、それを言いに行かなければならないのだ。ヴォルケは溜息を吐く。
「そうですね……致し方ないでしょう」

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