第2話:秘密の結婚 [2/6]
ヴォルケは今日も、ギルドに届いた郵便物の仕分けをしていた。自分が前線で戦うのに向いていないという事は百も承知だ。裏方の仕事に回って早数年、自分でも意外な程、彼は事務作業が得意だった。
ドナ宛、ドナ宛、スツルム宛、ドナ宛、ドナ宛、ドナ宛……。封筒を一つ一つ確認して、それぞれの郵便受けに振り分ける。
と、自分宛ての手紙がある事に気付き、目を丸くする。誰かから手紙を貰うなんて、何年振りだろう。
仕分けを終え、ギルド長の部屋の奥にある、自分に宛がわれた部屋に戻る。ドナ宛の手紙は、代理でヴォルケが読む事になっていたが、先に自分宛ての物を確認する事にした。
その封筒は、名家の家紋を模った封蝋で閉じられていた。椅子に座り、それを破る。中身を見て違和感を感じた。
内容を読むのは後回しにして、暫くその違和感について考える。やがて気付いた。封筒の宛名と、便箋の書き出しの筆跡を見比べる。別人の文字。
送る際に宛名書きだけ使用人に頼んだとか? いや、普通代筆を頼むなら本文の方か。それとも……。
推測しても、自分の中に答えは無い。一先ず内容を読む事にした。便箋に踊るのは、まるで女性が書いたかのような丸みを帯びた文字。先に署名だけ確認すると、男の名前が書かれていた。
「ドナ」
隣の部屋に彼女が帰ってきた音がして、ヴォルケは扉を開く。
「――家に知り合いって居ます?」
「――家?」
ドナはヴォルケの想像以上に驚いた顔をした。
「ドランクの実家だけど、お前、下の階に居てあの話聞こえたのかい?」
「いえ、手紙が来て」
事情を説明し、二人で内容を読み進める。傭兵ギルドのパトロンになろうかと考えているので、一度会って話が出来ないか、というありきたりな話だった。
「じゃあ、これドランクからです?」
「そうかもね。ま、床やら家具やら結構壊してくれたし、お金くれるってんなら話くらい聴いても良いんじゃない?」
「じゃあ行ってきます」
ヴォルケが部屋に戻って旅支度をしていると、誰かが廊下を駆けてくる音がする。続いてバタン、とギルド長の部屋の戸が開けられた。
「ドナ!」
「スツルム。どうしたの慌てて」
「ドランクを見かけなかったか!?」
ヴォルケは再度ドナの部屋に顔を出す。切羽詰まったスツルムの表情に、二人は顔を見合わせた。
スツルムに茶を飲ませて落ち着かせ、訊き出した話をまとめるとこうだ。
スツルムとドランクは、一月程前に長期休暇を取る事に決めた。初めの一週間は行動を共にし、その後の二週間は単独行動。この間にスツルムは一度ギルドに顔を出しているが、例の大喧嘩以来ドランクは此処には寄り付かないので、ドナもヴォルケも特に気にしていなかった。
そして、その後再び合流する予定だったのだが、予定の日を一週間過ぎてもドランクが現れないので、心配になって探し回っている、という次第らしい。
「待ち合わせの店の主人には言伝を頼んである。入れ違ったらギルドに連絡を寄越してくれって」
「スツルムに手紙は来てましたけど、いつも通り弟さんからのでしたね」
ヴォルケは思い出して、後で取りに行くようにスツルムに言う。
「そうか。まだ来てないんだな……」
肩を落とすスツルムに、例の手紙の件を伝えるべきか、ヴォルケは無言でドナに問う。ドナは首を横に振った。ヴォルケも同意して、小さく頷く。
仮にあの手紙の差出人がドランク本人だとしても、直接スツルムに宛てて書いていないのだから、それなりの理由や事情があるのだろう。だったら、それを確かめるまで、黙っておいた方が良さそうだ。
「少し遠出をする用事があるんです。私も道中探してきますよ」
「そうか、ありがたい」
「スツルムは少し休んだ方が良いでしょう」
「そうだね。碌に寝てないんだろ?」
スツルムはこくりと頷く。こんなに不安げな表情をしている彼女を見るのは、ヴォルケもドナも初めてだった。
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