宇宙混沌
Eyecatch

第1章:白の亡霊 [3/4]

「さあ! 今回も始まりましたこのトーナメント! 刃一つで命を懸けて戦う熱いバトルの火蓋が切って落とされる! 期待の第一戦は、なな、なーんと! 黒GIGでお馴染み、ベンジャミンの登場だ!!」
 良く通る司会の声が、抜き身の剣を片手に舞台上で固まっている青年の名を呼んだ。その視線は、相対する対戦者に向けられている。相手は漆黒のマントを頭から被っており、観客席からはその顔が見えなかった。
「そしてお相手も今回が初参加! 参加登録時の自己紹介に何も書かれていなかったから流石の俺も紹介しようがなーい! そんなの名は」
 その名が呼ばれると同時に、彼はフードを取り払う。
「セレスト!!」
 観客の中にどよめきが広がった。ラカムも思わず煙草を口から落としてしまう。
「おいおいおい」
「おーっと!? 何処かで見たことがある顔だ!」
 フードの下に隠されていたのは、長くうねった空色の髪。
「なんと! あの有名な傭兵のドランクじゃないか! これはとんだサプライズ! 司会の俺も知らなかった。さあ、この試合、一体どうなってしまうのか!?」
「レディー」
 審判の掛け声がかかる。
「ファイト!」
「降参しない?」
 何か言おうとしかけたアオイドスを遮り、ドランクはそう訊いた。
「……勿論だ」
 サシでは勝てない。それに、ドランクが勝ち進むつもりでいるなら、そう簡単に降参などしてくれないだろう。決着する頃にはお互い傷だらけというのが目に見えている。
 俺にはまだ、生きてやるべき事がある。ジータには悪いが、負け戦には臨みたくない。
 アオイドスは剣を床に落とす。審判が勝敗を決した。観客からは大ブーイングが飛んだ。
「おおっと、どうしたベンジャミン? 戦意喪失が早すぎやしないか?」
「一つ訊きたい」
 うるさいアナウンスの響く中、アオイドスはその声を張り上げ、去ろうとしていた黒い影を引き留める。
「この場に居るのは自分の意思か?」
「……さあね」
 アオイドスはその一言から察する。答えられもしない事情があるのか。
 剣を拾い、アオイドスも舞台から降りる。なんだか面倒な事になっている様だぞ、ジータ。

 一日目が終わり、グランサイファーへと戻ってくる。騎空団の仲間で勝ち残ったのは、カタリナとナルメア、バレンティン、そしてスツルムだけだった。
「いやー皆強いね」
 ジータは素直に感嘆する。幸い、降参してもなお攻撃を続けてくるような性悪には今の所出会っていない。負けた皆の傷も、ジータとイオの魔法で回復済みだ。
 それでもラカムは複雑な顔をする。
「それにしても、ドランクの奴が単独で参加してたとはな……」
 彼の経歴を考えれば、おかしな事でもないが。しかしすっかり足を洗ったのだと思っていたのに。
「単独ではないかもしれない」
「そりゃどういう意味だ、アオイドス」
「どうも彼の意思で参加しているわけではなさそうだ」
 二回戦へと勝ち進んだドランクは、またしても試合の開始直後に相手に降参を迫った。二回戦の相手も彼の実力を良く知っていたようで、それに応じた。
「確かに、戦いたい感じじゃなかったな……」
「私達と同じで、誰かに雇われてるんじゃないの?」
 ジータが言って、直後に顔をラカムから背けた。アオイドスはやれやれ、二人とも初心なんだから、と自分が初恋もまだな事を棚に上げて溜息を吐く。
「とにかく、残った仲間が彼と当たらない事を祈ろう」
 そして、部屋の隅で剣を磨いている、赤毛のドラフを見遣る。
 特に、彼女とは。

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