宇宙混沌
Eyecatch

第1章:白の亡霊 [2/4]

「しっかし、こんな危険な依頼受けちまって、本当に大丈夫なのか?」
 ラカムは剣を磨いているカタリナに問うた。
「受けたのはジータだ。彼女に直接訊けば良いだろう」
 アウギュステでのバカンスを終えて、一発目の大仕事。何故かラカムはアウギュステでの一件以来、ジータとまともに会話をしたがらない。
 そして、それはジータの側も同じだった。
「急に頼んでごめんね、スツルム」
「別に良い。丁度ドランクの奴も留守にしてたからな」
 頼まれたら断れない性質なので引き受けてしまったが、正直、今回の依頼はジータの騎空団には荷が重すぎた。そこで、慌ててスツルムに助力を乞うたところ、彼女は快く引き受けてくれた。
「それに、死んでもお前が居れば生き返れるからな」
 ジータは苦笑する。勿論、そうでなければこんな危険な任務に大切な仲間を行かせたりしない。
「勿論、負けを悟った時点で降参する」
 スツルムは停泊しているグランサイファーの窓の外を見る。目的地である円形の大きな建物を睨み付けた。
「尤も、降参した所で手を止めてくれるような、優しい人間ばかりだとは思うなよ」

「すっげぇ人出だな」
 ジータに抱かれたビィが思わず漏らした。彼等は例の大きな建物の中に居た。
 建物は外壁に沿ってぐるりと観客席が設けられており、中央には石畳が敷かれた舞台があった。所謂スタジアムという物である。
「はい……こんなに沢山、居るんですね……」
 ルリアが震える声で呟く。ジータは彼女の手を握った。
「無理して居なくても良いんだよ、ルリア」
「いえ。居ます。だってカタリナが戦うから」
 これから始まるのは、スポーツやショーと言った平和な見世物ではない。
 アンダーグラウンドで行われるエンターテイメント、相手を死に追いやっても良いという競技規則[レギュレーション]の剣術トーナメントだ。
 此処ではあらゆる犯罪が横行する。試合中の殺人を始め、違法賭博、危険なドーピング薬の売買……。それを秩序の騎空団も見逃しておくわけには行かなかったのだが、規制にはかなりの苦戦を強いられていた。
 まず、主催者の素性がさっぱり掴めない。競技場の場所も毎回変わり、次にいつどこで行われるのかは闇の世界に生きていなければその存在すら知る事が出来なかった。今回はモニカが苦心してやっと掴んだ情報を元にリーシャ経由で依頼があり、トーナメント参加者として登録する事でやっとこの地に辿り着く事が出来た。
「優勝すれば主催者の奢りでディナーにご招待ってか……」
 ジータ達の後ろの席に座ったラカムが呟く。他にもとんでもない額の賞金が出るとかなんとか。それで腕試しも兼ねて出場する輩は少なくない。
「そこで上手く主催者の野郎をとっ捕まえられれば良いが」
「まず優勝できるかだよなぁ」
 相手を故意に死なせても良い、という、常識から考えればあり得ない程緩い規定がある割に、他の部分については妙に厳しいレギュレーションがある大会だった。
 まず、使える武器は刃物一つのみ。大きさや形状は問わないが、仕掛けがあったり魔法で力を増幅させている物は使用不可だ。当然魔法の使用も禁止である。
 次に、勝敗の基準が厳格に定められている。どちらかが降参した時、膝か背中を床につけて十秒以上立ち上がれなかった時、そして死んだ時。開始の合図があるまでに攻撃を開始したり、途中で舞台から降りたりした場合はその時点で失格となる。
 そして最後に、舞台の外に居る人間を傷付けてはならない。これには巨額の罰金などの重い罰則が定められていた。但し、相手が舞台の上に居る間の殺生については自由だ。
 そういう厳しいルールがあったため、騎空団の中でも参加登録できる人間は限られていた。助っ人のスツルムを覗くと、騎空団からはカタリナ、ジャミル、残虐三兄弟の三人、ナルメア、ユイシス、ロザミアのみ参加している。なお、人間以外の参加は認められなかったので、星晶獣の仲間も客席で一緒に観戦だ。
「みなさんの当たる相手、怖くない人だと良いですね……」
 ルリアが言いながら対戦表を眺めている。ジータも隣から覗き込んだ。
「いきなりアオイドスの試合から始まるんだ。相手は……」
 そこには「セレスト」と書かれていた。
「星晶獣と同じ名前だな」
「ビィったら。人の名前でもあるよ」
 試合開始が間もない事を告げるアナウンスが流れる。慌てて席を確保する人達の波が落ち着いた時、対戦する両者が舞台上に現れた。

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