宇宙混沌
Eyecatch

疑心暗鬼


 ドランクは近くの喫茶店でアイスコーヒーを飲んでいた。気分が落ち込んだ時は、苦手だと宣うブラックを敢えて頼むのだとか。その深い色と苦みに溺れて、自分の心を苦しめる本当の理由から、一時でも目を逸らす為に。
 店に入って向かいに座る。あたしも同じ物を頼んだ。
「信用できない言動をしてるのは僕も自覚してる」
 まだ何も言っていないのに、ドランクは勝手に言い訳を始めた。そういう所も、はっきり言って胡散臭い。
「だから今日は何でも話すよ。何が知りたい?」
 ドランクはテーブルに片肘を突き、あたしから目を逸らすように頭をその手の上に乗せた。そういう仕草も不誠実そうに見える。
 でも、それは全部あたしが受ける印象の話だ。ドランクにとっては、ただの癖でしかない。
「……いつも、あたしに内緒で何処に行ってる?」
「故郷。お互い踏み込まない方が良いでしょ」
「……どうして恋人と公言してくれない?」
「僕の弱みだと知られて、君が人質に取られたら困る」
 いつもは饒舌な癖に、淡々と要点だけを答えていく。そしてそれら全てが、愛以外の何物でもない感情で裏打ちされていた。
「……じゃあ、なんで……」
 真昼間から公衆の場で尋ねるのが憚られる話題にまでなった。声を低くし、婉曲な表現で伝わるか試す。
「なんで、いつも、途中で……」
「スツルム殿」
 ドランクが頭を上げて座り直した。
「僕が君の何かを嫌いだなんて言った事ある?」
「……無い」
「する時いつも気持ち良いよって言ってるよね?」
「言ってる……」
「でもスツルム殿はそうじゃないでしょ?」
「う……」
 そうだ。あたしはしょっちゅう、ドランクのこれが気に入らないだの、あれが癇に障るだのと、本人に向かっても言っている。
 それは全部、あたしが勝手に理想を押し付けて、期待した結果が得られないと喚いているだけだ。抱かれる時だって、いつも快感より痛みが強くて、本当はドランクが達するまで頑張れないのは、あたしの方なのに。
「スツルム殿が赤ちゃん欲しいとかなら話は別だけど、まだ休業も引退も考えてないでしょ? だったら僕の為にスツルム殿が痛い思いなんかしなくて良いよ」
 ドランクのグラスに入っていた氷が、音を立てて溶けた。
「他に訊きたい事は?」
 あたしは首を横に振る。
「……これからも恋人で居てくれる、よね?」
 今度は縦に振る。
「良かった」
 ドランクは残っていたコーヒーを飲み干すと、いつかの夏の夜に見た、曇りの無い笑顔を浮かべた。

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