第1話:男の子になっちゃったジータちゃん [5/5]
よろず屋にサイズの合った服を着せてもらい、ジータは再び洞窟へと向かった。スツルム達の為の服を手に、ジータとルリアが奥へと進む。
「助かったよ。でも」
ドランクはエルーンの女性用の服に身を包む。
「なんでスカートをチョイスしてくるかなあ」
「いや、私もズボンの方が良いと思うって言ったんだけど、よろず屋さんにゴリ押しされて……」
しかし似合う。というか、完全に成長して垂れ目になったフェリだ。声も似ているから、暗い中だとフェリが居るのではないかと錯覚してしまう。
「スツルムも大丈夫? 寒かったよね?」
「寒くはなかった」
最初は体の変化に戸惑って落ち込んでいたスツルムも、待っている間にドランクが慰めたのか、普通に会話できる程度に回復していた。
「狭いな」
立ち上がると洞窟の天井に頭がぶつかる。彼女……いや彼……? の事を支える様にして、ドランクが寄り添った。
「お腹も減ったし、調べたい事は色々あるけど一旦宿に戻ろう」
そして食堂で待ち受ける、団員達の驚愕の声。
「母さん!?」
叫んだのは、ドランクを見たフェリだった。
「あ、いや、すまない。まだそんな歳じゃないのに、気を悪くさせたらすまなかった」
もう顔も覚えていないのに、なんだか似ている気がして。
「気にしないで良いよ、フェリちゃん」
その呼び方にフェリは動きを止める。ラカムに事情を説明してもらい、納得した声を出した。
「ドランクなのか。道理で見間違えるはずだ」
「しかし、こうして並んでると本当に姉妹みたいだな」
ラカムが感嘆する。ドランクは調子に乗った。
「でしょー? フェリちゃんは可愛いし、それって僕も可愛い、つまり元が良いってうっ!?」
「あ」
スツルムがいつもの調子で切っ先で突いた所、思ったよりも深く刺さってしまい、ドランクが演技ではない呻きを上げた。血を流したドランクよりも、それを見たスツルムの方が青くなる。
「だ、大丈夫だよちょっと切れただけだから。魔法で治るからね。しっかりしてスツルム殿!」
そのままよろよろと失神しかけたスツルムを、ドランクとラカムとバレンティンが三人がかりで支える。
「是非その剣で俺を――」
「あーーーーはいはいバレンティンセクハラはそこまで!」
ジャスティンが大声を出す。最近はこうやって団内秩序が保たれていた。
「ムフッ……放置プレイか……」
「違います」
どうやっても悦んでしまう豚に、ジャスティンは頭を抱える。
「いっそバレンティンも連れて行って、女になれば大人しくなってくれたかもしれませんね……」
「いやならねえだろ絶対。いかがわしさが増すぞ」
ラカムはスツルムを椅子に座らせる。
「とにかく原因を調べねえとなあ。ずっとそのままは困るだろ」
「僕は、僕やスツルム殿がどんな姿をしてても気にしないけどねー」
回復魔法で傷を手当し終わったドランクがスツルムの隣に腰を下ろす。いつもと大きさのちぐはぐさが逆だ。
「私は困るよ」
ジータが言って、ラカムを見る。ラカムも自分を見ていて、目が合って気まずくなった。
「……私はもう一回洞窟に行こうと思う」
「そういや、ルリアちゃんは何か言ってなかったのか?」
「星晶獣の気配は全くしないって」
「じゃあ僕は、街まで行って図書館で調べ物でもしようかな。スツルム殿はホテルで待ってる?」
スツルムは黙って頷く。ラカムはアオイドスを振り返った。
「アオイドス達はどうする?」
「フェスに行く」
「はあ?」
「これまで昼間のフェスには行けなかったんだ! 俺は顔が有名すぎるから!」
「暑いからってだけじゃなかったのか」
ジータがなるほど、と手を打つ。
「音楽ファンが集まる場所に俺が行けばどうなるか想像がつくだろう。夜ならまだ誤魔化せるが、他の演者のステージを邪魔する真似はしたくないからな」
「ああ、まあ、そりゃそうだな。行って来いよ」
初めは呆れた声を出したラカムも折れる。
「なら折角だし、もっと可愛らしくしましょうか」
「コーディネートなら任せてー」
すっと近寄り、アオイドスの両脇を固めたのはロゼッタとイオだった。
「よろず屋さんが、体が元に戻るまでは貸衣装を無償で貸してくれるそうよ。お言葉に甘えて好きなの選んだら?」
「髪の毛も結わせて。あたしがとびっきり可愛くしてあげる」
「『美しく』で頼むよ」
言いながらもアオイドスは嫌な顔をせず、二人に連れられてよろず屋へ。
「なんで僕を置いて行くんですか」
めらめらと音が聞こえてきそうなくらいの嫉妬を込めたのはジャスティンだ。三人の後を追って行ってしまう。
「俺達も行くか」
「うん」
慣れねえな。見た目と声が違うだけなのに。いや、そこだけしか違わないからか。
ラカムは念の為、腰の銃を確認する。茶髪の少年が笑いかけてきたので、ぎこちなく微笑み返した。
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