宇宙混沌
Eyecatch

第3章:甘く見ていちゃ駄目です [4/4]

 理想を押し付けるのは良くない。僕がもっと強くならなくちゃ。
 きっとスツルム殿は僕が思う程強くもないし、潔癖でも、清廉でもない。だから僕が支えてあげないといけない時もあるだろうし、諫めないといけない事もあるだろう。曲がりなりにも僕の方が年上な訳だし。
 それでも一つだけ、気付きの前後で変わらない思いがあった。
「おかえり」
 スツルム殿は夕食の時間までには帰ってきた。外で鍛錬でもしてきたのだろう、うっすらと汗をかいている。
「ん」
 気まずそうに頷いて、荷物からタオルと着替えを取る。彼女がシャワーから上がるのを待って、僕は切り出した。
「あのさスツルム殿。ご飯行く前に話しておきたい事があるんだけど」
「何だ、改まって」
 身構えたスツルム殿に、隣に座るようベッドを叩いて示す。彼女は一瞬迷ったが、従った。
「ここまで教えてきといて、今更って思うだろうけど」
 僕はスツルム殿の方に身体を向ける。スツルム殿は一瞬顔を上げて僕の目を見たが、すぐに俯いた。ちょいちょい、と顎を触ると、渋々と顔を上げる。
「僕、スツルム殿が僕以外の人に抱かれるの嫌だな」
 そんな事になったら、僕はその相手を殺しても良い。
「だから、僕と同じ仕事はしないでほしい。代わりにもっと安全で割の良い仕事、見つけてくるから」
 この独占欲が敬慕から来るものなのか、恋慕から来るものなのかは区別が付かなかったが、どちらでも良い。
「僕だけの人でいてよ」
 これもまた押し付けなのは百も承知だ。スツルム殿だって、手のかかる弟だと思っていた人間がいきなりこんな告白をしてきたんだから、戸惑うだろう。
 良い返事は期待しない。それでも、言わなきゃ変えられる未来も変わらない。
 暫くの沈黙の後、帰ってきた言葉は意外なものだった。
「……あたしだって、お前が他の人とするのは嫌なんだぞ」
 意外すぎて意味を咀嚼するのに二拍かかる。
「そうなの!?」
 スツルム殿が頷く。
「でも、もうしてしまったものはしょうがないだろ。お前、あたしと出会った時にはもう……」
 言って俯き、僕の胸に顔を埋めた。えっと、これ両想いって事かな?
「じゃあ」
 僕は少しの間逡巡したが、決心するとスツルム殿の背中に手を回す。
「僕ももうやめるよ」
 刺されて、命の危険がある事を再認識したのもある。腹に傷が残って、今後の仕事がやりにくくなったのもある。
 それでも結局、僕だってそれに縋りついていただけなのだ。口先だけで情報を訊き出す自信が無かったから。傭兵らしく戦い一本で食べていく覚悟も無かったから。
 もっと強くなろう。再度決意を固める。
 僕はスツルム殿の顎に手を添えて上を向かせると、そっとその唇に口付けた。

「すっかり遅くなっちゃったねえ」
「お前が何回も『あと一回だけ』って言って続けたからだろ」
「だって~スツルム殿の中すっごく気持ち良かったんだもん」
 スツルム殿は本日二回目のシャワーから上がって、湯気の立つ身体を拭いている。僕も夕食を食べに出かける為、手早く身を清めて身支度をした。
「今日は何食べる? お肉?」
「肉。あと酒」
 すっかり飲み慣れたスツルム殿は、既にドラフらしく酒豪の雰囲気を漂わせている。
「はいはい。じゃああのお店が良いかなー。こっちが近道だよ」
 角を曲がり、人通りの無い小道を進む。少し歩いた所で、スツルム殿が言った。
「あたしも、口車に乗せるの上手かっただろ」
 意味が良く解らなくて、そのまま無言で十歩近く進む。理解して漸く、僕は手を顔に当てて唸った。
「それならそうと早く言ってよ」
 最初から、スツルム殿はこの仕事をするつもりが無かったんだ。全ては僕と結ばれる為、いや、僕にあの仕事を辞めさせる為?
「正直に言ったところで、お前、相手にしてくれたか?」
「うーん、ごめん、しなかったと思う……」
 スツルム殿が、珍しく笑った。再び明るい通りへと駆け出した彼女の背を追う。
 何でも良いか。僕はまだ、敬愛する人の隣に居るのだから。

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