宇宙混沌
Eyecatch

第3章:甘く見ていちゃ駄目です


「どうしたんだ!? 何なんだこの血は!」
「刺された……」
「刺された?」
「寝る……。回復魔法[ヒール]で治せるから大丈夫……」
「大丈夫な訳無いだろ!」
 僕は笑ったが、もうベッドまでも歩けなかった。今夜が峠、という状態は否定しない。スツルム殿の手を借りて床に伏し、回復魔法をかけ始める。
「大丈夫だよ」
 少し頭が明瞭としてきた。それでも顔色はまだ悪いのだろう、心配そうな表情を向けるスツルム殿に笑いかける。
 ああ、でも、先に焼いてしまったから痕が残るだろうな。今後の仕事に差し支える。
 そんな事を考えていると、気付けば朝日が昇っていた。

「大体解ったから本番を教えてくれ」
 僕が命からがら逃げ帰ってきた日から数日後、僕達はあの街を引き払って、以前も滞在した事がある町の宿に移っていた。スツルム殿は懲りずにそんな事を言ってくる。大体解ったって、僕殆ど何も教えてないけど。
「この仕事がすっごく危険だって、この前の件でスツルム殿もよーく解ったでしょ?」
「解った。だからこそ、お前だけにこんな事させておく訳にはいかない」
 いや、そんな事言ったら、僕だって危ないからこそ君には教えられないよ。しかし強い瞳が、その反論は受け付けないと語ってくる。
「だいたい、まだ一回指入れただけでしょ。もっとちゃんと慣らした方が良いよ」
「風呂で自分で伸ばしてるから大丈夫だ」
 根拠が無い「大丈夫」という言葉に呆れたが、先日自分もそうやって綱渡りをしたのだった。反論を出そうとした声を溜め息に変え、考える。
 本番ね。スツルム殿の処女を奪えると思えば、悪くは無いかもしれない。遅かれ早かれいずれ彼女の事を抱く事になった時に、他の誰かに抱かれた後よりはずっと良い。というか、彼女の純潔を他の誰かに汚されるなんて、考えたくもないな。
 僕はスツルム殿の腕を引く。ベッドに押し倒せば、その体の小ささを嫌でも再認識した。
 もっと強い人だと思っていた。だって僕の背中を守ってくれている時はそうじゃない。こんな、僕が片手で手を引いたくらいで倒れる人じゃないでしょう?
 喉元を触れば、びくり、と震える。細い首。このまま指に力を込めれば、きっと絞め殺してしまう事も出来るんだ。
 彼女の生死すらも、この状況では自分が握っている。そう考えると怖くなった。
 こんな状況で、僕が向ける欲望に縋った彼女は、何を……。
 僕は首を振る。やめろやめろ、わざわざ深淵を覗き込む事は無い。
 でも、君には僕より強くいてほしかったな。ただの押し付けだけど、本当に。
 スツルム殿が僕の下半身を弄る。僕は体を起こして、それをやめさせた。
「やっぱり気分じゃないから、ごめんね」
「……他の奴は抱けるのに、あたしは嫌なんだな」
 そう言うとスツルム殿は部屋を出て行ってしまう。僕は一人残され、誰に言い訳するでもないのに、勝手に脳内に言葉が流れてきた。
 嫌? そりゃまあ嫌だけど、別に嫌いでそう言ってる訳じゃないよね。
 ……だったらどういう理由でそう言ってるんだ?
 自らの問いに頭を抱えた。それで僕は気付いてしまったのだ。
 僕がスツルム殿に抱いていた感情が、敬慕だけじゃなくて、恋慕もあったって事。
 僕は、僕が彼女に重ねた理想の「スツルム殿」の虚像に、恋をしていたのだ。

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