第3話:甘く見ていちゃ駄目です [1/4]
差し伸べられた手を救世主のものだと錯覚していた。それくらい、あの時は孤独に絶望していた。
初めは、話し相手をしていれば服や小物を貢いでくれる、気前の良い人だと思っていた。しかしそんな上手い話は無い。やがて身体での奉仕を求められる様になる。
そこで逃げれば良かったのに。僕は、僕を可愛がってくれる人の愛情を手放したくなかった。何もかもを渡して、僕は何を得たのだろう。
そして、僕が自身の尊厳と引き換えに求めた愛すらも、偽物だったと判明する。彼は僕を自分で抱くだけでなく、他の人間にも犯させた。要は商品の選定と教育を行っていただけだ。
それに気付いた時、僕の中で何かが弾け飛んだ。
奪ってやる。僕のおかげで稼げたお金も、それで養ってきた家族も。
そんな尊いものがお前みたいな人間の屑に存在して、僕の手の中に無いなんて事、許せない。
僕はスツルム殿の豊満な胸が、絶え間無く下腹部の前で動く様を見つめていた。
「……気持ち良くないか?」
いつもよりも小さいままの僕に、スツルム殿はおずおずと尋ねる。
「そんな事ないよ」
下手だろうが上手かろうが、これ以上のテクニックを教えるつもりは無い。
それでも僕の声色に覇気が無い事に気付いたのか、スツルム殿はパイズリをやめて僕に抱き着いてきた。完全に勃ってはいないが、濡れてはいる僕の先端が彼女の身体に当たる。
「そろそろ……手でするの、教えてくれ」
そう言って身体と身体の隙間に手を入れ、僕を触る。
どうしようかな。気は進まないけど、また前回新しい事を教えてから延ばしに延ばしたので、流石に何かやってもらうか。
「人によって好きな握る強さが違うから、相手の反応をよく見て」
そう言って好きに触らせる。今日の僕は憂鬱な顔をしているみたいだから、何をしても上手くいかないよ。それで自信を失くしてくれれば万々歳だ。
ちょんちょんとスツルム殿の指が先端に触れてから、濡れている面積を増やしていく。口を使う事も忘れない。
「……僕以外の人とした?」
殆ど教えてないのに、段取りが良いなと感じた僕の口から、ついそんな言葉が飛び出る。そんなつもりは無かったのに、低く咎める様な声が出て、自分自身焦ってしまった。
「え……?」
てっきり「心外だ」と怒られるかと思ったが、スツルム殿の喉から上がってきたのは純粋な戸惑いだった。
「あたしは、約束は守る。信じてないのか?」
潤んだ瞳に理性が飛んだ。
「ごめん。スツルム殿の事は信頼してるよ」
僕はスツルム殿の手の上から自分を握って硬くする。急に積極的になった僕が意外だったのか、スツルム殿が複雑な表情で僕を見上げた。その身体を抱き寄せてキスをする。
「お、おい、ちょっと……」
そのまま組み敷いて、彼女の割れ目に指を這わせた。既に濡れているそこに入り込めば、喉の方から良い声が上がる。
可愛いな。一瞬やめてほしそうに僕の腕を掴もうとした小さな手が、再び僕の劣情を撫でに戻ったのを感じてそう思った。
中では達せなさそうだったので、外側と乳房も刺激してやる。スツルム殿の身体に力が入り、僕も強く握られた。一瞬頭が真っ白になる。
互いの荒い呼吸音しか聴こえない。冴えていく頭が余計な事を考えた。
僕に奉仕する事で、スツルム殿は何を得たいのだろう?
雷に打たれた様に身体を起こす。スツルム殿の手の中から、僕が吐き出した欲望が漏れ出ていた。
「ごめ、先、シャワー浴びる」
それだけ言って背を向ける。憧れの人を汚してしまった罪悪感。いやそれよりも、彼女の心の隙間を覗き見てしまったような背徳感が耐えられなかった。
もうやめよう、こんな事。僕は何度も頭に浮かんだ感情を決意に変えて、シャワーの蛇口を捻った。
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