宇宙混沌
Eyecatch

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 店を出て宿を探す。そして厳しい現実に突き当たる。
「なんでこんな宿代高いの? 観光地でも高級ホテルでもないのに」
「観光地じゃない、から。単価を高くしないと維持費の方が上回るんだろ」
「呑気に言ってる場合じゃないよー。これじゃ今回の移動費と宿代だけで報酬吹っ飛んじゃうじゃな~い」
 それは嫌だ。赤字とか最悪だ。この後数日は仕事の予定が無いのに。
 うろうろと町を歩き回るが、宿は先程当たった所しか無さそうだ。実際受付で「他には無いけど」と言われた。殿様商売め。
 町のはずれまで来てしまい、周囲には怪しげな店も立ち並ぶようになる。
「あ」
 相棒が何か見つけた。が、あたしが振り向くとあからさまに目を逸らす。
「ああ……」
 しかしその派手な外装の建物には気付いてしまう。性行為をする為の休憩所。もちろん宿泊もできる。
「他にもあるじゃないか、宿」
「スツルム殿~? 何する所か解って言ってる~?」
「当然。とにかく値段を見よう」
 借りたスペースをどういう風に使うかは宿泊者の勝手だろう。セックスしないと出られない部屋、みたいな巷の同人絵物語みたいな宿が本当にあってたまるか。
「思ったよりも安いな。これ一人の料金か?」
「こういう所は頭数じゃなくて部屋数で勘定だから、二人でこの値段だよ」
 料金表を指さして問うと、すらすらと答えが返ってくる。
「え、って事はいつもの宿の三分の二くらいじゃないか」
「そうだねえ。でも、此処が特別安いって訳じゃないね。他の街の相場と大差無いよ」
 という事は、これからはこの手の宿を使えばかなり節約できるのでは……と皮算用する。
「今日は此処にする」
「はいはい。ま、あっちの宿に戻るのも嫌だしね」
 部屋に入ると、今度はその広さに圧倒される。家具も色々置かれているし、アメニティも揃っている。内装が奇抜でベッドが一つなことを除けば高級宿の類だ。そのベッドも普通のダブルベッドより大きい。
「本当にあの価格で合ってるのか?」
「合ってるよ。ラブホは昼間も休憩所として稼げるし、連泊の割引とかが無いから」
 連泊は出来ないのか。じゃあ長期滞在の時は普通の宿だな。
「……妙に詳しいな……」
 袖口のベルトを緩めていた相棒はあたしの目を見ないで答える。
「そりゃ四半世紀も生きてたら初めてじゃないからね」
 嫌な沈黙が流れる。あたしは剣を置くと、逃げる様に先に風呂に入る。風呂も脱衣所も、大人二人が同時に入って狭くない様な広さだ。
 湯に打たれながら昨日の事と、酒場での言葉を反芻する。あっちも期待していた、のだろうか。
 肌を流れる湯は確実に体温を上げてくれるのに、昨夜感じた温もりとは全く違う。昨日のは、眠れはしなかったが嫌ではなかった。
 いつだって母の膝の上はその時の末の妹や弟のものだった。父とは、家で過ごすより外で剣を教えてもらっていた時間の方が長い気がする。
 父が死に、母が死に、泣き言は自分の胸の内に仕舞い込む様になった。自分で自分の事ができるのは最低限必要で、弟妹達の為にはそれよりもっと強くなくちゃいけなくて。あたしが笑っていないと、弟妹達はもっと不安がる。
 だから甘えてくる人間が増えるなんてまっぴら御免だった。
 でも違った。仕事を見つけて来るのも歩調を合わせるのも、今はあいつに甘えっきりで。あたしが怒りに任せて不満をぶつけても、あいつはのらりくらりと躱してへらへらと笑っている。笑って、懲りずに隣に居てくれるんだ。
 それで手放したくなくなってしまった。あたしだけの人で居てほしい。
 言って、言ってしまおう。多分それが一番良い。据え膳を断る様な男じゃないのは解ってる。
「お先」
 咄嗟に良い言葉を思い付く程器用じゃない。誘い文句を考え抜いてから部屋に戻ると、相棒は真剣な顔付きで天井に吊られている照明を睨んでいた。

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