宇宙混沌
Eyecatch

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 一緒に居ると鬱陶しい男だった。時々ふらっと居なくなると寂しいと感じるくらいに。
「……これで良い?」
 腰巻は毛布の様に大きい訳ではない。ぴったりと寄り添っても、あたしの脚と男の薄着の上半身を全て覆うことは出来ず、腹の辺りにぎりぎり被せられるくらいだった。
「……ん」
 せめて触れあって暖を取ろうと思っても、あたしの体形では必然的に胸を押し付ける事になる。流石にそれはまだ恥ずかしい。相棒の方も心得ていて、上半身の方は下半身よりもやや離す様にしている。
「じゃあ、おやすみ」
 金の瞳が閉じられる。暖炉の火に照らされ、自分達の姿がはっきりと見えるこの状態では、あたしの方が到底眠れなさそうだ。

 もの寂しさが確信に変わったのは、街を二人で歩いていた時だった。
『痛って! え、何? 今僕何かしました?』
『あ、』
 すれ違った女に鼻の下を伸ばしていた相棒を思わず刺してしまった。本当にただそれだけで、刺される覚えの無い相棒は耳を垂らして怯えた。
『す、すまない。なんか苛ついて……』
 刺すほどの苛つき。つまりは嫉妬。それはこの男に惚れているという事。そう間も無く気が付いて、気分が悪いのか腹が痛いのかと耳元で問い続けている男を、気恥ずかしさに再度刺して黙らせた。
 その男が今目の前で無防備に眠ろうとしている。思えば同じ部屋で寝るのは初めての事だし、それもお互い薄着な上に至近距離だ。顔がどんどん熱くなってくる。
 眠ろう、眠ろう。あたしも目を閉じたが、今度は違う考えが頭を過る。
 好きだと今言ってしまえば良いじゃないか。そうすれば心置きなく抱き締めてもらえるだろう。
 いやいや待て。相棒が同じ気持ちかどうかなんてわからないんだ。第一あたしだってこれまでそういう素振りを見せてこなかった。今更だし、柄でもない。もし逆の立場なら困惑する。
 それに女好きのこいつの事だ。都合が良いと思えば受け入れてくれるだろうが、そうして出来上がる関係があたしの欲しい物になるかどうかはわからない。
 そんな堂々巡りの思考は今日に始まった事じゃない。何かきっかけになりそうな出来事を、食べ物を探す獣の様に日々探している。なのに見つけたら見つけたで、言う理由と言わない言い訳を探して、これまでのところ言い訳の方が多い。
 今日はやめよう。そう結論付けた直後、突如相棒があたしの上に覆い被さってきた。
「!?」
「シッ!」
 一瞬襲ってきたのかと思ったがそうではないらしい。気配を消す相棒に倣って、自分も息を殺して耳を澄ます。
 建物の外を歩く、重量感のある足音。首を捻って窓を見ると、ドラフの男程の大きさの獣が徘徊している。動きからして魔物だろうか。窓を破られたらおしまいだ。
 あたしは隣に置いてあった剣を取ろうとして、それを相棒が掴んでいる事に気が付く。咄嗟に手元にある武器を取ろうとして馬乗りのようになったらしい。
 暫くすると魔物の気配は去る。二人で息をついて、男は元の位置に戻った。
「こっわ……あんなの居るなんて聞いてないんだけど……」
 相棒は適当に転がしていたポーチを引き寄せる。中に入っている宝珠をすぐ出せるようにして枕元に置いた。
「餌代わりに連れて来られたのかもな。そうしたら報酬も回収できる」
「ちょっと、洒落にならない事言わないでよ!」
 相棒は魔法で水を出し、暖炉の火を消す。明かりや暖かさに寄って来たのかもしれない以上、仕方ない。
 再び眠ろうと思ったが、二人とも今の緊張と、またあれがやってくるかもしれない不安ですっかり目が覚めてしまった。室温もどんどん下がっていく。
「寒……」
 何気無く呟くと、あたしよりも体温の高い腕が背中に回った。

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