宇宙混沌
Eyecatch


「気分はどうですかネェ」
 独特な喋り方の将校が尋ねた。肉体の感覚を確かめながら答える。
「悪くはないです。まったく、そういうヤバくて面白そうな物があるから、強国巡りはやめられないなぁ~」
 将校が握っている禍々しい結晶を見つめながら体を起こす。どんな怪我をしていたのかは自分ではよくわからないが、どれだけ考えても言葉が殆ど浮かばなかったくらいだ、生死を彷徨ったに違いない。それが、自分で見える部分は綺麗さっぱり無くなっている。
「興味がありますか」
「うん、とっても」
「やめておきなさい」
「見たところ、将校さんはかなり使い込んでるみたいだけど?」
 力の流れを読む。輝く結晶とは別に、同じ力が発せられている物体がある。将校の身体だ。
「吾輩の様になりたくなければ首を突っ込まない事ですネェ。折角貴方には副作用の無いギリギリで留めたんですから」
 だから右眼は治っていないのか。まあ、失ったのは自分が避けられなかった所為なので文句は無い。
「服は新しいのを連れの方が置いて行きましたよォ」
「ありがとうございます」
 スツルム殿が選んでくれたと思われる服に袖を通す。
「ベットナー中尉……でしたっけ?」
 確か貴族の家柄だな、なんて古い記憶を辿る。
「ポンメルンで頼みますよォ。この辺りの地域では名字は殆ど呼びませんネェ」
「ポンメルン中尉、スツルム殿と何か取引したんでしょ? 僕あの時意識ちゃんと戻ってなかったから」
「あの魔物は吾輩の部隊と貴方達が共闘して倒した。魔晶の事は他言無用ですネェ」
 へぇ、魔晶って言うのか。
 ポンメルンは魔晶を懐に仕舞い、病室の窓辺に寄ると夕暮れに染まる街並みを眺めた。
「昔、仲間のドラフの少女の角が折られた事がありましてネェ」
 ドラフの角は折れても生え変わることが無ければ、断面から伸びる事も無い。潰れた目が視力を取り戻す事が無いように。
「太くて大きな、立派な角でした。毎日長い髪を編んで巻きつけていたんですよォ……」
「それで?」
「その断面を見る度、心が痛みましたネェ。その[]が鏡を見る度に、どんな気持ちになっているか考えると」
 僕がベストの前を留め終わった所で、ポンメルンは振り向く。
「貴方も傭兵にしては身なりを整えていた様ですからネェ。パートナーを悲しませない様に振る舞いなさいネェ」
「……心に留めておきます」
「解ったらさっさと去るんですネェ。もう関わる事が無い事を願ってますよォ」
 僕は病院を出る。髪は括らずに、手櫛で整えて前髪をしっかりと撫でつけた。
 もう誰かを口説く必要も無い。最低限の清潔感さえあれば問題無いだろう。
 道の向こうに小さな人影が見える。それは一瞬立ち止まると、ガチャガチャと剣を鳴らしながら駆け寄って来る。
「ドランク!」
「お仕事お疲れ様ー」
「治ったのか!?」
「全部じゃないけど」
 ぼろぼろと泣き出すスツルム殿の頭を撫でる。
「心配かけてごめんね。ポンメルンさんにはもう関わるなって言われちゃった」
 暫く休んでから、また地道に仕事を請けていこう。そう考えながらその日の宿を探している時、まさかポンメルンの報告書を見たお偉いさんの目に留まっていただなんて、想像もしていなかった。

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