背中を護ってほしい。いつだったかそう言われた。
スツルムはその時、その言葉の意味を大して深くは考えなかった。二人はコンビを組んで戦っている。背中合わせに全方向を警戒するなんて、基本中の基本だ。
でも、彼は本当に怯えていたのだ。
「ドランクは脱がないのか?」
何度か身体を重ねた後の、ある夜の事だった。いつもシャツ一枚残して営みを始める夫に、何気なく尋ねた。それだけのつもりだった。
「……そんなに僕の背中が気になる?」
明らかに動揺していた。それはスツルムが相手で、密室だからという気の緩みもあったのだろう。
「……気になる」
スツルムも勿論、身分や役職によってはエルーンだって肌を隠す文化がある事は知っている。しかしドランクの服は背中が開いていないどころか、隙間すら無い。それだけでも十分好奇心をそそるが、妻の前でも絶対に上半身裸にならないというのは、かなり不自然だ。
てっきり、致している最中にスツルムが背中を引っ掻くから、爪が直接肌を抉らない様に脱がないのだと思っていた。いや、勿論それも理由の一部ではあるのだろう。
だが、目の前でらしくなく黙り込んだドランクの表情が、それが主たる理由ではないとはっきり物語っていた。
「僕の背中に何があっても、何も無いという事にしてくれる?」
「秘密なんだな」
「うん。こればっかりは、いくらスツルムでも僕、漏らされたら口封じしなきゃ」
いつもと同じ穏やかな口調でそう言われる。
「じゃあ良い。そこまでして見たい訳じゃない」
「そう。ありがとう」
そう言うとドランクは、スツルムの背中をそっと敷布に押し付けた。