宇宙混沌
Eyecatch

第5章:火消し


 そうまでしてでも奪わないといけなかったのか。
 ああそうだ。こうしなければイオニアへの道を閉ざせなかった。
 いいや違う。イオニアへの道を閉ざす必要など無かった。
 二つの声が頭を叩く。苦しい。
 楽園なんて、資格の無い者が足を踏み入れるべきではない。自分の判断は正しかった。
 そう自分自身が信じなければ、誰がこの秘密の罪を赦してくれるのか。

「はっ!?」
 ドランクは夜中に飛び起きる。酷い夢だった。上下する胸に手を当てて呼吸を整えようとする。
「どうした?」
 半裸で隣に寝ていたスツルムが目を擦る。手を掴んでそっとやめさせた。
「ごめん、悪い夢を見て」
「珍しいな」
「うん」
 スツルムは一度身を起こしたが、ドランクにもたれかかるようにして再び眠りに落ちる。ドランクは彼女に布団をかけると、自分はベッドを降りる。
「イオニアの賢者に告ぐ」
 赤い方の宝珠を握り、部屋の隅で呟いた。
「我、その扉を通る事を欲す者なり」
 何も起こらない。その事に安堵して、ドランクは再び布団に戻った。
 しかしぐっすり眠れる程、安全が確保された訳ではない。
「……封じないと、駄目かな」
 ヴォルケは秘密の殆どを知ってしまった。葬らなければ。
 この世界の為に。
「どうやって?」
 無理だ。ヴォルケはギルドの裏方業務が主で、ギルド内で殺すにもギルドから連れ出すにも怪しまれる。スツルムやドナの目も掻い潜らなければ。第一あの耳の良い男に不意打ちが通用するのか?
「ふ、っはは」
 思わず笑ってしまった。いつも脅してばかりで、実際に具体的な殺害計画を立てた事なんて無かった。人一人この世から消す事のなんと難しい事か。
 戦場やイオニアでは、ど素人でも簡単に殺せたのに。

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