そうまでしてでも奪わないといけなかったのか。
ああそうだ。こうしなければイオニアへの道を閉ざせなかった。
いいや違う。イオニアへの道を閉ざす必要など無かった。
二つの声が頭を叩く。苦しい。
楽園なんて、資格の無い者が足を踏み入れるべきではない。自分の判断は正しかった。
そう自分自身が信じなければ、誰がこの秘密の罪を赦してくれるのか。
「はっ!?」
ドランクは夜中に飛び起きる。酷い夢だった。上下する胸に手を当てて呼吸を整えようとする。
「どうした?」
半裸で隣に寝ていたスツルムが目を擦る。手を掴んでそっとやめさせた。
「ごめん、悪い夢を見て」
「珍しいな」
「うん」
スツルムは一度身を起こしたが、ドランクにもたれかかるようにして再び眠りに落ちる。ドランクは彼女に布団をかけると、自分はベッドを降りる。
「イオニアの賢者に告ぐ」
赤い方の宝珠を握り、部屋の隅で呟いた。
「我、その扉を通る事を欲す者なり」
何も起こらない。その事に安堵して、ドランクは再び布団に戻った。
しかしぐっすり眠れる程、安全が確保された訳ではない。
「……封じないと、駄目かな」
ヴォルケは秘密の殆どを知ってしまった。葬らなければ。
この世界の為に。
「どうやって?」
無理だ。ヴォルケはギルドの裏方業務が主で、ギルド内で殺すにもギルドから連れ出すにも怪しまれる。スツルムやドナの目も掻い潜らなければ。第一あの耳の良い男に不意打ちが通用するのか?
「ふ、っはは」
思わず笑ってしまった。いつも脅してばかりで、実際に具体的な殺害計画を立てた事なんて無かった。人一人この世から消す事のなんと難しい事か。
戦場やイオニアでは、ど素人でも簡単に殺せたのに。