宇宙混沌
Eyecatch

第5章:火消し


「そっちに行ったぞ! ドランク!」
「おっけー。任せちゃって~」
 ドランクは豪語した。実際、誰も彼がミスをするなどとは思っていなかった。
「ほら、こっちだ」
 強力な魔法をかけてくる魔物の討伐。傭兵ギルドから何人も戦力を投入して、それでもどうにもならなかったので、再びドランクの手を借りる事になった。今回はスツルムも一緒だ。
 吠えながらついてくる魔物を引き連れて、ドランクは集団から離れる。殺傷能力が高い魔法で即死させるつもりなのだろう。
 ドランクが宝珠を構えた。その瞬間に、魔物が速度を上げて彼に突進する。
「えっ!?」
 油断していた訳ではないだろう。しかし、どうしても防御から攻撃に転じる時には隙ができる。その瞬間に、彼は至近距離から魔法の直撃を受けてしまった。
「ドランク!」
 すぐさまスツルムが駆け寄り、魔物の進路を変える。遠巻きに状況を見ながら支援していたヴォルケも、倒れた彼の元へ。
「大丈夫ですか?」
「霧の島……」
 大丈夫ではなかった。神経攪乱系の魔法を食らったのだろう。ドランクは焦点の合わない目で、なにやらぶつぶつと呟いている。
「お姉さんが……セレスト……森の……」
 まずい。ヴォルケは以前、彼の実家の島で彼から聞いた話を思い出す。
 何の秘密を握っているのかは知らないが、此処には他にも傭兵が居る。意図せず口にしたら面倒な事になりかねない。
 ヴォルケはポケットから注射器を出した。例の一件の後、常備しておいた方が都合が良いと、自分で調合した睡眠薬。まさか最初に味方に使うことになろうとは。
「離婚して……宝珠……そう、宝珠だ……うっ!?」
「ヴォルケ!?」
 ドランクの呻きにスツルムが振り返る。
「錯乱しているので眠らせただけです。寝惚けてこっちに魔法をかけられても困りますからね」
 スツルムはほっとした表情になり、ドナ達と一緒に魔物を追い払いに行く。今日も仕留め損ねたな。
 ドランクが沈黙したことを確認して、ヴォルケは一先ずほっと息を吐いた。しかし、油断はできない。
「どうしようねえ、あれ」
「最悪人里に下りてこなければ良いんだろ?」
「罠か柵でも作って、許してもらうしかないかぁ」
 暫くすると、とりあえず魔物を遠くに追いやった仲間達が戻ってくる。スツルムは此方に駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫なのか? 死んでないよな?」
「快復には時間がかかるでしょう。あの魔物用に、少々毒も仕込んであったので」
 スツルムは一瞬ヴォルケを睨んで、それから諦めた様に溜息を吐く。
「いや、ありがとう」
 彼女も知らないなりに、なんとなくは気付いているのだろう。彼が重大な秘密を抱えている事くらい。

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