第6話:枯れた後に花は咲く [4/6]
「ただいまー」
ローアインの代わりに、屋敷に居る人の分の夕食を手に屋敷に戻る。先に戻ったフェリちゃんがピアノを弾いていた。
「もう日が暮れるから、ほどほどにね」
広間に行って、曲が終わったタイミングで声をかけると、フェリちゃんは弾かれた様に立ち上がった。
「鍵が開いた!」
その言葉に、僕も慌ててピアノに近寄る。解錠はできたが金具が錆びついているらしい。僕が力を込めると、音を立てながら蓋は開いた。
フェリちゃんが息を呑む音がする。僕は蓋が落ちてこない事を確認して、手を離すと中身を見た。
そこには、今しがた摘まれたばかりに見える、あの白い花が一輪入っていた。
「これ……」
「おばあちゃんの宝物だってさ」
フェリちゃんはそっとその花を手に取る。大粒の雫が柔らかい花弁に当たってから床に落ちた。
セレストはおばあちゃんにとって、滅びの象徴であり、生命の輪廻を感じさせてくれる友であり、そしてまた、永遠の具現でもあったんだ。
永遠の友好の約束を。かつてご先祖様がセレストに花を贈ったように、おばあちゃんもまたそれを姉へ贈り、姉はその時受け取っていた事を知らぬまま、妹に同じ花を贈った。
良い話だね。ここで終われば。
「……あのさ」
他にも入っていた折り紙や玩具などを出して並べているフェリちゃんに、意を決して問う。
「僕、どうしても訊きたい事があって」
僕は生まれた時から、おばあちゃんの一番大切な存在だった。そう信じていた。
でも違った。おばあちゃんの過去には祖父や大伯父やフェリちゃんが居た。死んだ二人はともかく、まだ生きているかもしれないフェリちゃんの事は、どんな人か見てみたかった。そして、おばあちゃんや僕をどう思っているか知りたかった。
「なんだ? 改まって」
「フェリちゃんはさ……僕のおばあちゃんの事、嫌いだったの?」
ずっと訊く勇気が無かった。記憶が朧げなフェリちゃんに訊いても意味が無いと解っていた。
「そんな事……」
ない。そう言いかけた口は、結局その言葉を発しない。
「……すまない。即答できない。もちろん、全部が全部嫌いで憎くて仕方ないなんて思ってないけど、フィラの全部を手放しで好きだったかと言われれば、そうじゃなかった」
その答えに、妙に救われたような気になった。嫌いだと言われたらそれは普通にショックだったし、違うと言われれば、おばあちゃんを此処に連れてきてあげられなかった後悔に一層苛まれる気がしていた。
「そっか。そうだよねえ」
スツルム殿の予想は外れたね。意外とハッピーエンドだ。
「でもやっぱり、その言葉は、おばあちゃんに聴かせてあげたかったな」
♥などすると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングに反映されます。
※サイト内ランキングへの反映には時間がかかります。