宇宙混沌
Eyecatch

第1章:束の間


「スツルム殿、お誕生日おめでとう! はい、今年のプレゼント」
 僕はコンビを組んで十年になる相棒に、綺麗な包装紙に巻かれた箱を手渡した。受け取った彼女の耳には、五年前に贈ったお揃いのピアスが揺れている。
 十年、十年か。長くても五年で住む土地を変えろ、とあの商人は言っていた。勿論、それには従っている。
 だが、付き合う人間も変えなければ意味が無い。僕がそう気づいた時、既に僕の心は彼女から離れられなくなっていた。
 スツルム殿は受け取った箱を、大切そうに荷物に仕舞う。
「開けないの?」
「後でゆっくり見る」
「そう。じゃあ、いただきまーす」
 既にテーブルに置かれていた肉料理に手を付ける。今日は、あの日商人が僕にしてくれたように、僕の奢りだ。
「……なあ、ドランク」
「なに?」
「いい加減、お前の誕生日も教えろ」
「それはね~秘密!」
 いつまで誤魔化しきれるだろう。誕生日を教えてしまったら、その日には絶対幾つになったのかと訊かれる筈なのだ。
 怪訝な視線を避ける様に、僕は窓を見る。働き盛りの男の顔が硝子に反射した。
 彼女と出逢った時は、まだ幾何か彼女の方が年下に見えた。その見た目の差は年々狭まり、今ではもう、同い年くらいに見える。もうあと十年もすれば、スツルム殿も違和感を拭えなくなるに違いない。
「……あたしが祝ってもらってばっかりだ……」
「気にしなくて良いよぉ」
 諦めた様に息をつき、スツルム殿もナイフとフォークを取る。彼女が食べている姿は、とても可愛い。
「ねえスツルム殿」
「ん?」
 僕、人より歳を取るのがとても遅いんだけど、これからも一緒に居てくれるかな?
「……いや、呼んだだけ」
 毎年尋ねたくて仕方ない質問を、今年もまた飲み込む。
 あとどれくらい一緒に居られるのか、なんて、今日みたいなおめでたい日に考えなくても良いじゃないか。僕はグラスになみなみと注がれていた酒を呷ると、束の間、スツルム殿と同じ時間を生きる男としての夢を見た。

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