手合わせ [1/5]
「……なぁ」
「んー?」
猫の様な声で相棒が僕に話しかける。僕は本を読んでいたが、中断して顔を上げた。寡黙気味の彼女が、自らちょっかいをかけてくるのは珍しい。
「どうしたのスツルム殿。大事な話?」
「そう……かも……」
かもって何。しかし、彼女が口下手なのは百も承知だ。黙って続きを促す。
「その……手合わせ、しないか?」
「この時間から?」
あと半刻もしたら寝ようと思っていた。当然日は暮れているし、何なら僕もスツルム殿も寝間着に着替えている。
「そっちじゃない」
「え?」
「今度は」
ベッドの上で。そう言ってスツルム殿は耳まで真っ赤にして俯く。
「……スツルム殿~。そんな言い回し誰に教わったの?」
「お前だ、馬鹿!」
「記憶に無いねぇ」
「初めて会った日、街で再会した時!」
「わかったから怒鳴らないで」
怒られちゃうよ、と言うと口を噤む。本当に記憶には無いが、如何にも僕が言いそうな台詞ではある。
「して良いの?」
「良い。というか、いつになったらするつもりなんだ」
僕達が、互いに想い合っていたと知ったのは二月ほど前。以来こうやって同じ部屋に寝泊まりしているけれど、口付けより先へは進まなかった。
「スツルム殿の心の準備が出来たら」
いや、僕の心の準備が出来たら、かも。なんでか昔から遊び人と思われる事が多いんだけど、僕だって初めてなのだ。スツルム殿の経験の有無を聞いた訳でもないし、寧ろスツルム殿の方が上手だったらどうしよう。
「じゃあ出来た」
「嘘は良くないよ」
「嘘じゃない!」
むくれっ面も可愛い。僕は本をベットサイドの棚に置いて、隣のベッドに座ったスツルム殿を呼び寄せた。膨らんだ頬を撫でる。
「どうなっても知らないよ」
「お前となら、大丈夫だ」
きゅっと小さな体を抱き締める。枕の上にその頭を乗せると、灯りを消してほしいと言われた。
「……いや、真っ暗は駄目だわ」
従ったところ、何も見えなさすぎる。服を脱がす自信も無い。
「ちょっとだけ点けて良い?」
「ええ……」
「一本だけ! 蠟燭一本だけだから!」
ぶつぶつ何か文句を言われつつも、これでは進められないので一本だけ灯りを戻す。暗闇で瞳孔が開いて、思ったよりもくっきりと互いの姿が見えた。
「脱がすよ」
「ん……」
スツルム殿のシャツのボタンを次々と外していく。
「お前……なんかもっと情緒みたいなの、無いのか……?」
「え? 情緒?」
「脱がすって宣言して普通に脱がしていくだけなのか……」
あたしがただの子供みたいだ、とスツルム殿は腕で目元を覆う。
「なんかごめん。じょ、情緒ねえ……」
アーーーーー! これはスツルム殿にも普段から遊んでると思われてるパターンじゃ!? ごめんねえ遊び人じゃなくて!!
パニックになりかけたので、一旦体を起こしてスツルム殿を視界の外に追いやる。
「じゃあ逆に訊くけど、スツルム殿はどういうシチュエーションが好きなの?」
脱がすのを止め、隣に寝そべって彼女の顔を見る。
「どういうって……」
スツルム殿は暫く口をぱくぱくさせていたが、更に顔を赤くして最終的には噤んでしまった。
「ねーどんなどんな?」
「~~~~~~」
お、これは面白いな。何かしら理想はあるけど、口に出すのは恥ずかしいっぽい。
「スローセックスとかイチャラブとか無理矢理とか色々あるでしょ~? ねえほら、どれが良いの?」
スツルム殿はなんだかんだ言っても、まだ若いし、意外と女の子っぽい趣味だからイチャラブかなぁ……なんてニコニコしながら答えを待っていた僕の耳に届いたのは、予想外の返答だった。
「む、無理矢理……」
「……へ?」
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