宇宙混沌
Eyecatch

第3章:意識しちゃうジータちゃん


「似合わんにも程があるな」
「これでも似合ってたんだよ! 女になってた時は!」
 アポロが思わず漏らした一言に、ドランクが必死で反論する。
「憲兵さんにも、最初僕まで犯人の一味だと思われちゃうしさ~。もう散々」
 犯人達と被害者の少女を憲兵団に引き渡し、聴取を終えて戻って来たらすっかり遅くなってしまった。シェロカルテが口を利いて、彼等の分の食事の為にシェフに残っていてもらっている。
「でもご飯の前に着替えてくるね。腰がきつくて」
「はい~すみません~」
 さっきからシェロが平謝りな理由は、カタリナ達は先に事情を聞いていて知っている。ともあれ、まずは食べそびれてしまった人達の夕食だ。
「へぇ~秘密基地で新商品の開発!」
 ドランクが感嘆の声を漏らす。ジータ達が食事をしている間に、シェロカルテがあの洞窟で起こった事の説明を始めていた。
 話によれば、洞窟の先にあった倉庫はシェロカルテの秘密基地、もとい開発中の商品置き場らしい。しかし夏場は暑いので、そこに行く途中の洞窟の中で作業を行っていたそうだ。シェロカルテが開発中の装置を置きっぱなしにして海の家に戻っていた間に誤作動したらしく、更に運悪くジータ達がやって来たという次第。
「はい~。元は魔物なんかを弱体化させたり小さくして、愛玩動物の様にして見てもらうアトラクションを考えていたのですが、なかなか生体を操作するのは難しくて……」
「なんとか実装できたけど、弱体化じゃなくて性転換機能になっちゃってた訳か。しかも時限付きの」
 ドランクがなるほどね、と納得した横で、スツルムが溜息を吐く。
「まったく人騒がせな」
 シェロカルテが面白がって黙っていたのもあり、平謝りするしかない。
「いやでも凄いよ。一体どういう技術なんです? 魔法じゃなさそうだったけど」
 ドランクは食事の手を止め、身を乗り出して質問する。
「ご迷惑をおかけしたのは申し訳ないですが~そこは企業秘密という事で~」
「えー」
「その代わり今日のお食事代は戴きませんので~」
「酒代もか?」
 スツルムの問いに、勿論との返答。ちゃっかりしてるなあ、と食事を再開したドランクが、今度はジータを見る。
「で? 団長さんとラカムは一体何があったわけ?」
「えっ? 何? 何もないよ!」
 いやあるでしょ。さっきからお互い目を合わせてないし。こんな面白い話されてる間もずっと黙ってるし。ていうか二人で呼びに行ったのに、憲兵団を連れて来たのはラカム一人だけだったし。
 まあ良いか、とドランクは今度はアポロに声をかける。
「元気そうで何より」
「そちらもな」
「にしても、オイゲンさんと素直に会う約束するなんて随分丸くなったじゃない。どういう風の吹き回し?」
「別に、気が向いただけだ。お前も、以前よりは感情豊かになったな」
 ありゃ。ばれてたか。ドランクは笑って誤魔化す。
「ま、変な魔物や星晶獣の仕業じゃなくて良かったぜ。ごちそうさん」
 ラカムは食べ終わるとそそくさと宿に帰ってしまう。それを合図に、残っていた団員達もばらばらと解散し始めた。
「明日こそはフェス行こうね、スツルム殿」
「いや、明日は知ってるバンドが出ないから良い。海で鍛錬だ」
「ええ~それって泳ぐって事?」
「当たり前だろ」
「じゃあ僕一人でフェスに行くー」
「なんだドランク、泳げないのか? 傭兵なら水に入らざるを得ない場面もあっただろう?」
 アポロに人ではないものを見る目で見られ、ドランクは再び必死で反論した。
「僕は泳げるような気候じゃない所の生まれなの! 水に入るイコール死! わかる!?」
「わからん」
「そこまで寒くないだろ、お前の実家の島」
「あーそういえばスツルム殿は来た事あったね! そうだよ嘘だよ! 単に僕が怖いだけ!」
 アポロが笑う。オイゲンは少し離れた席からその様子を穏やかに見つめている。
 ジータも食事を終えると、その後ろを通ってそっと抜け出した。店の目の前の浜辺を歩く。
 さっきのほんとに何だったんだろう。
 繋がれた手を見る。大きかったな。あと温かかった。ルリアとはいつも手を繋いでいるけど、それとは全然違っていて。
 でも、男になっている時は不思議と触られても平気だった。いつもより自然にというか、変な事喋らずにうまくやっていけてた気がするな。
 ……もし、自分が男に生まれていて、男としてラカムと出会っていたら、どうなっていたんだろう。
「女性が夜に一人歩きとは、感心しないな」
「アオイドス」
 浜を歩いてきたのは、ギターを持ったアオイドスだった。彼もちゃんと元の身長に戻っている。
「誘拐事件があったんだってな。今回はエルーンばかり狙われたそうだが、君も気を付けた方が良い」
「……そういうのって、私が男の子だったら言われないのかな」
 俯いたジータに、アオイドスが笑いかける。
「訂正しよう。性別は関係無い。俺も子供の頃は何度も攫われた」
 アオイドスにとっては、その相手は丁度良いネズミだったが。
「ちゃんと身を守る術を持っているなら良い。一人で居たいなら、剣を貸そう」
 アオイドスがギターからレイピアを取り出そうとしたが、ジータは断る。
「アオイドスこそこんな時間にギター持ってどこ行くの? 夜フェスももう終わりでしょ?」
「ああ、いや。宿で作曲していたら思わず叫んでしまって怒られてしまった……。興が乗っている内に書き上げたいから、グランサイファーに戻ろうと思って」
「そっか。じゃあ、私は宿に戻るね。心配してくれてありがと」
 彼と別れて、言葉通り宿へ向かう。ロビーに隣接する喫煙室の硝子の向こうに、ラカムの姿があった。向こうもジータに気付いたが、ぷい、と目を背けられてしまう。
 ジータはもやもやとした気持ちのまま、自分の部屋まで階段を駆け上がると、勢いよく扉を閉めた。

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