「飴ならあるけど、食べる?」
頷いたジータに、ドランクがポーチから一つ出して渡した。携帯食料も無くは無いが、本当に耐えられなくなった時の為に取っておいた方が良いだろう。
「魔物でも何でも、出て来てくれたら狩れるんだがな」
ラカムは火に背を向けて、木々の間を睨む。何も居ない。俺も反対側を見遣るが、ただ森の木々が茂っているだけだ。ただそれだけなのに、妙に不気味だ。
「冬じゃなくて良かったな」
「ああ」
ベアトリクスに相槌を打ったが、俺はこいつ程楽観的にはなれなかった。
伝声機での通信も試してみたが、無駄だった。今夜一晩やり過ごせたとして、その後どうする? 昼だろうが夜だろうが、山を下りられないのなら状況は変わらない。周囲には食べられそうな木の実も成っていないのに。
「ベアちゃんは?」
ドランクは次にそう言った。こいつが連れの女を後回しにするなんて珍しい。団長は子供だからまだしも……いや、二人が幼馴染だという事を考えれば、つい子供の頃の癖が出ただけだろう。
「良いのか?」
ベアトリクスがそう言って手を差し出した時、急に風が吹く。風下に座っていたベアトリクスとドランクが、焚き火の煙に顔を顰めた。ドランクの飴玉が、二人の手から転がり落ちる。
「あれ……?」
ベアトリクスが呟いて、ゆっくりと立ち上がった。ドランクは動きを止めたまま、飴玉を拾おうとしない。
「どうしたの?」
団長の問いには答えない。俺も声をかけたが、その名の最後の音を言う前に、彼女は何かを短く叫ぶと走り出した。
「おい! 逸れるぞ!」
引き留めようとしたスツルムを、別の影が追い抜いていく。
「!!」
ドランクはそう叫んで、ベアトリクスと共に見えなくなった。