翌日、僕達は再び食堂に集まった。
「何か判ったのか?」
「いいや」
ラカムの問いにはアオイドスが答える。彼の手には例の紙。詳細は僕から説明する事にした。
「何も書かれてないから、僕が魔法で色々調べてみたんだけど、呪いがかけられた痕跡も何も無いね。軽く火で炙ったりもしたけど、インクが付着していた様子も無い」
「だが、この質感はあまり出会わないものだ」
続きはアオイドスの担当だ。彼が顔を上げると、眼鏡が光る。
「紙には色々種類がある。動物の革や木の皮を使ったもの、植物の繊維を溶かして再度固めたもの……。これは後者に近いが、楽譜等に使われている紙に比べて丈夫で粗い手触りだ。きちんと製紙されたものではなく、固い植物を原料にした手作りか何かだろう」
「だから僕達は、今度はこの紙の材料に原因があるんじゃないかと考えてるんだ」
「材料……心当たりある?」
団長さんが周囲に尋ねるが、芳しい答えは得られない。
「人の手で作られたものである限りは、必ず手掛かりが見つかるさ。僕の情報網にも訊いてみよう。……リンゴはどうだい、アオイドス」
アオイドスのマネージャーのジェームズが、市場で買ってきた林檎をカットして、義弟に差し出す。
「ウサギ型が良い」
我儘な義弟に、やれやれと肩を竦めつつも、皮を剥いてからその口へと放り込む。
「しかし、アオイドスには本当に効かないんだな」
ラカムがまた忌々しそうに札を見つめる。話をしている間も、ずっとそれはアオイドスの指の間に収まっていた。
「昔から、廃人と狂人にはこの類のものは効かない。俺は狂人だからな」
「そう言うなよベンジー」
あっけらかんと言ってのけたアオイドスの口に、ジェームズが二つ目を放り込む。
狂人には効かない、か……。僕はあまり考えない様にして、提案する。
「まあとにかく、街に出て情報収集だね。午前中は皆バラバラに行動しよう」
「オッケー。じゃあ私、スツルムと一緒に行動したいな」
「え、なんで?」
団長さんに腕を絡ませられたスツルム殿が、目を丸くする。
「たまには良いでしょ? ね?」
最後の念押しは僕に向かう。何か企んでるのかな、まあ良いけど。
「街で聞き込みするだけだし、そうしようか」
スツルム殿は僕に何か言いかけたが、視線を伏せると「ああ」とだけ答えた。