「もう一本いるか?」
貰った一本を吸い終わり、殻を空の底に捨てた時、背後から声がかかった。
「いや、いいよ。話には付き合うけど」
振り返り、手すりに背を預ければ、ラカムは苦笑する。一本取り出して火をつけた。
「……どう転んでも、浮かばれねえなと思っちまって」
先程、団長さんの手を必要以上に強く掴んでしまった事だろう。
「操られて、俺に向かって来るならまだ良い。百点満点じゃあないがな。別の奴に向かっていったら、俺は退くしかない。何も起こらなかったとしても、俺に満足してるとは限らねえ」
黙って相槌を打っていたら、意味深な視線が投げかけられる。
「考えてる事、当ててやろうか」
「いや。当てるも何も、君と同じだよ」
その刃が誰にも向かわなかった時、持ち主が誰かとの関係に満足しているとは限らない。誰にも好意を持っていないという可能性もある。
「俺は、お前の心配なんて杞憂だと思うぜ。不安に思ってるのが何よりの証拠だ」
「……『愛してる』なんて、口で言うのは簡単なんだよ」
僕の口から言葉が漏れる。
「僕の両親は愛情だなんて言いながら……」
そこで自制心が働いた。こんなの、彼に話す事ではない。スツルム殿にも言っていないのに。
「いや、なんでもない。僕は部屋に戻るよ」
甲板を後にする。廊下を歩いていると、楽しげな声が聞こえた。
「三時のおやつ~」
「ベアったら、子供みたい」
「ローアインの作るスイーツは格別だからなー」
「ベアもお菓子作るの上手じゃん」
団長さん達が食堂に向かって歩いているのが見えた。一際嬉しそうに進む横顔が、失った誰かと重なる。
「……やっぱり、成長すると似るもんだなあ」
でも、そんな幻影を追いかけたって仕方がない。僕は首を振り、言葉通りあてがわれた部屋へ向かった。