平行線 [7/9]
「へー、あんたらが噂の。てっきりどこぞの御曹司とその護衛の方かと」
「やだな~もう。ちゃあんと覚えておいてくださいね。僕達が『スツルム&ドランク』ですから」
結局あたしが自惚れていただけなんだろう。ドランクは心の底に開いた穴を塞いでくれる人を探していたのかもしれないが、あたしに求められていたのはその役割ではなかったのだ。
ドランクが望む通り、彼の相棒として生きよう。そう決めて変わり映えの無い日々を過ごしていると、気付けば数年経っていた。
ドランクの魔法は、相変わらず敵に回したくない程度には洗練されている。あたしも、自分で言うのはなんだが、その辺の戦士よりは腕が立つ。いつの間にか、ドランクが熱心に営業せずとも仕事が舞い込むようになり、仕送りをしてもなお余る程の収入を得られるようになった。
「はい、こちらが前金ね。持って来てくれた数によっては報酬弾むよ」
「ありがとうございます」
今日の仕事は魔物の毛皮集めだ。最近の仕事の中では結構楽な部類に入る。
ドランクが魔法でまとめて追い込み、あたしが剣で殴って仕留めていく。台車に載せた数がノルマの二割増しくらいになったところで、山を下りた。
「随分気前良く払ってくれたねー」
「そんなに貴重なのか? あの毛皮」
「いや、そうでもないと思うけど。需要は高いんじゃない?」
ドランクは興味が無さそうに言ってから、自分の服装をちらりと見た。出逢った時に着ていた、大きな石の嵌った服。他にも幾つか持っていたが、一番動きやすいこの服を残して、他は売ってしまったらしい。
「どこぞの御曹司だって。お世辞って言われる側は居心地悪いね」
「確かに、もう御曹司って歳じゃないな」
でも、育ちの良さは滲み出ている。あたしと並んで、相棒だとは思えないくらい。
「スツルム殿は若くて良いよねー。まあ、歳の差は離れも縮みもしないけど」
早く終わったので、腹が空くまでぶらぶらと街を歩く。
「何か買う? スツルム殿、あんまり小物とか買わないよねえ」
「荷物になるだろ」
「アクセサリー屋さんがあるよ」
ドランクがあたしを見下ろす。入りたいならそう言えば良いだろ。仕事の交渉は得意なのに、普段の会話は下手くそなんだから。
やれやれと肩を竦めて、あたしはその店の方に歩き出した。
「ドランクはこういうの好きだよな」
「うーん、僕の場合はお洒落じゃなくておまじないなんだけどねー」
日に日に指輪が増えていく。ドランクが三つ目を選定している間、あたしは他の棚へ。剣を握る手に指輪は嵌められない。どうせ見るなら、買わないつもりでも自分が身に着けられるものの方が良い。
隣の棚には耳飾りが陳列されていた。ヒューマン向けの小さなものから、エルーン向けの大きなものまで。意外と安いな。
ふと、揃いの物でも身に着ければコンビと判りやすいのではないかと思った。軍隊だって揃いの制服を着ている事だし、組んでる傭兵がそういうのをやってもおかしくはないだろう。
ドランクが着けても自分が着けても浮かないデザインを物色する。繊細な作りの物は戦っている間に壊れてしまうかもしれない。棚の隅から隅まで視線を走らせ、十字型の金のピアスに目が留まった。大きさと材質の所為か、流石に値が張る。
「お待たせ~」
二人分、手持ちが足りるだろうかと財布を出そうとした時、買い物を終えたドランクに声をかけられる。
「何か良いのあった?」
「べ、別に」
天邪鬼な自分の性格を恨む。店を出ると、ドランクの新しい指輪は左手の小指に嵌っていた。
「変わったデザインだな」
「でしょ? どうしてもこれが良かったんだけど、サイズがね~。この指にしか嵌らなくて」
「おまじないはどうした? そういうのは嵌める指で変わるんだろ?」
「まあ、たまには純粋にお洒落しても良いでしょ。ちょっと予算もオーバーしちゃったし、欲しかったのはまた今度」
あたしは今一度、ドランクの新しい指輪を見た。二つの輪が交差している。ドランクにしては地味で繊細な選択で、少し意外だったが、口には出さないでおく。
「何? スツルム殿も気に入った?」
肯くと、ドランクはそれを外して、あたしの指に嵌めてみる。生憎、親指でも大きすぎた。
「スツルム殿は小さいねえ」
「ドラフ女だから仕方ないだろ。それに、あたしは剣士だから指輪は着けられないぞ」
「そうだった」
「あたしの分まで二本嵌めてると思えば良いだろ」
ドランクは指輪を自分の指に戻し、どこか物憂げにそうねえ、と呟いた。
「早いけど、空いてる内にご飯食べちゃおっか」
「ああ」
あたしは少しだけ店を振り返ったが、すぐに前を向く。
「次の仕事、何処だ?」
「この島の裏側の町~」
「その後の予定、特に無いよな?」
「まだ仕事は何も請けてないけど」
「暫く別行動がしたい」
「……良いけど……」
その間にこの街に戻ってきて、あの耳飾りを買おう。ついでだ、そろそろ傷んできたし、服もみすぼらしく見えないのに買い替えよう。多分手持ちがすっからかんになるから、仕事もちゃんとしなきゃな。
「それじゃあ僕は、その間に――島の遺跡でも見てようかな」
「わかった。用が済んだら、いつもの店で」
あたしは一人でも大丈夫だ。また会おうという約束があれば。お前もそれで大丈夫だろう?
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