宇宙混沌
Eyecatch

将来の夢


「僕はスツルム殿より先に死にたい」
 隣で眠りについたと思った男がそう漏らした。
「初めて寝た後に言う事じゃないな」
「ごめん。将来の事色々考えてたら、つい……」
 大きな手があたしの手を包む。寝返りを打って向き合った。
「心配しなくても、歳を考えたらお前の方が先に死ぬ可能性が高いだろ」
「はは、そりゃそうか。でも、スツルム殿の事を看取ってあげたい気持ちも、あるんだよねえ……」
「さっさと死ねと」
「やだなぁ、そんな意味じゃないよ」
「わかってる」
 わかってる。顔を相手の胸に埋めると、手を包んでいた手のひらは背中の素肌に回った。
 でも、どっちも叶えるのは、無理な話だ。

 なんとなくドランクが先に逝ってしまう気がしていた。どんなに健康に気を遣ったって、ドランクの方が先に歳を重ねていて、その差は永遠に埋まらない。傭兵としての戦い方だって、あいつはあたしより無茶をする。
 そして、その予感は当たった。
「スツルムー。居る?」
「ジータか。久し振りだな」
 あたしは突然の客人を家に迎え入れる。ジータは娘に手土産を持ってきてくれていた。
「ちょっと見ない間に大きくなったねー。はいこれ、一歳の誕生日祝い。遅くなっちゃったけど」
「ありがとう」
 中身を出すと、音の鳴る玩具だった。娘に渡すと、早速振り回して遊ぶ。
「気に入ってくれたかな?」
「ああ。今日は一人なのか?」
「この後すぐ仕事なの。お茶も遠慮しとくね」
「そうか。元気そうで何よりだ」
「スツルム達も……」
 ジータは言いにくそうに口籠る。
「その……ドランクは……」
「まだ帰ってこない」
「そう」
 ジータは俯く。
「私も探してはいるんだけど、全然居場所が掴めなくて……」
「……もう探さなくて良いぞ」
 今度は顔を上げてあたしを見た。
「どうせ何処かで野垂れ死んだんだ」
「……スツルムが、そう言うなら。ねぇ、うちの騎空団に入る? これから――ちゃんの為にも、お金必要でしょ? うちなら誰かしら子供の面倒見れるし、スツルムが居てくれるとこっちも心強いし」
「ありがたい申し出だが、それは出来ない」
「どうして?」
「あたしは……傭兵ギルドの長を、継ぐ事にした。裏方だし、娘を育てながらでも出来そうだから、もう引き受けてしまった」
「そっか……じゃあさっきのは気にしないで!」
 もう行かなきゃ、と踵を返したジータを見送る。娘の隣に戻って、ガラガラと玩具を弄んでいる様子を眺めた。
 ドランクはこの子の顔も見ていない。この子が産まれる前に仕事に出かけたきり、そのままだ。
 あたし達を捨てたとは思えなかった。思いたくなかった。でも、だとしたら、それは不可抗力で帰れなくなったという事で。
 この子は父親の顔を知らない。片親だから可哀相だとは思わないが、あたし一人で藻掻いて、この子に苦労をかけるくらいなら……。
「あう!」
「痛」
 プレゼントで膝を叩かれた。
「乱暴するなら没収だ」
 どの口が言うのだと我ながら思う。それでも、この子を育てる責任がある。居なくなったあいつの分まで。
「結局、どっちも相手を看取れなかったな」
 仕方無い。傭兵なんて所詮、そういう運命だ。

Written by