宇宙混沌
Eyecatch

宝石 [7/9]

 子供は親に従え。若者は年寄りを敬え。庶民は貴族に仕えよ。持てる者は貧しきに与えよ。
 騎士よりも指導者の方が向いているのだから、指導者の道を進むべきだ。
 とうとう私にもこの闇が見えるようになってしまった。決して誰かに貶められている訳ではないのに、息が詰まるような苦しみ。
 私は、騎士になりたくて此処に入ったのだ。
 けれど、誰かを守るという事は、本当に騎士でなければ果たせない事だろうか。剣を振るって誰かの血を流すやり方より、此処で子供達の心に寄り添って生きる人生の方が、平和的で良いのではないか。
 答えが出せないまま、月日が過ぎた。私はブラック・クラスに無事進級していて、卒業試験に落ちなければ、あと半年も経たぬうちにこの島を去る事になっていた。
 そんな時だった。流行り病で領主が倒れたのは。若者には大した病気ではなかったが、老体にはこの流行を越えられるだけの力が残っていなかったのだろう。
「お姉様! ……」
 次期領主は君だ。領主を決める試合の前からそんな事を教官に念押しされて、私は歯噛みする。
 間違いなく、今、この学校で最も優れた剣術を会得しているのは、私だ。それは毎度貼り出される成績順にも数値として表れていたし、何より自分自身が一番良く解っていた。
「お姉様……」
「え? ああ、ヴィーラ、居たのか」
「お顔色がよろしくありませんが、あの部屋で教官に何かされましたか?」
 二人きりの様でしたし、とヴィーラは眉尻を下げながらも眼を光らせる。
「いや、そんなんじゃ無いよ。無暗に人を疑うのは止した方が良い」
「すみません。そうですね……」
 そう謝った彼女の表情で、どうして気付いてやれなかったのだろう。
 でもそれではっきりした。私が勝っていたとしても、良き教育者にはなれなかったと。
 ヴィーラは結局、私を介した仮初の人間関係しか築いていなかったのだ。彼女にとっては私が世界の全てで、私が喜ぶから、他の者とも仲良く振る舞っていただけだった。
 そんな事にすら気付けない人間が、何百と居る生徒一人一人の心に寄り添うなんて、出来やしない。だからといって、あの日ヴィーラに、私の磨いた石に瑕をつけてもらった事を、正当化できる訳ではないが。
 結局、私が一番自分本位だったのだ。青い髪の青年を見上げた時に、彼の苦心から目を背けた様に、ヴィーラを見下ろす時にも、彼女の受けてきた理不尽を、それらに対する恨みや憎しみを、心の底から理解しようとはしなかった。
「ご卒業おめでとうございます、お姉様」
「ヴィーラ……」
 ヴィーラは在学中だが、在校生代表ではなく領主として、卒業生へ祝辞を送った。
「これ、私からのお祝いです。お持ちください」
 小さな箱を渡される。
「ありがとう、ヴィーラ……」
「レッドベリルの耳飾りです。実家の伝手を使って、お姉様に似合いそうなのを見つけてもらったんですよ。お気に召していただけると嬉しいです」
「もちろん、大切にするよ。…………」
 それ以外に何と言えば良いのかわからなかった。騎空艇の時間が来たので、そのまま私はアルビオンの土から足を離し――束の間の学生生活に、別れを告げた。
 そこに縛り付けられたままの、ヴィーラを残して。

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