宇宙混沌
Eyecatch

宝石


 案の定、エルーンは集合場所に現れなかった。今頃こっぴどく叱られて、また懲罰部屋だろう。
 そう思いながら授業を受けていると、突然教官が現れて、講義をしていた教官に何かを伝えてまた去って行った。
「えー皆さん、最上級生[ブラック・クラス]の――さんと、来賓の付き添いで来られた傭兵の――さんとの剣術試合が行われるそうです。折角の機会ですので、実戦で使われている剣術を見たい人は、授業を抜けて闘技場に行っても構いません」
 そう言えば、彼の戦っているところを見た事がないな。気が付くと私は、荷物をまとめて席を立っていた。

 闘技場では青い髪を後ろに流し、ピンでまとめたエルーンの生徒と、癖のある赤毛を伸ばしたドラフの少女が対峙していた。ドラフは年齢がわかりづらいが、確か視察団が「彼女は私達と同じくらい」と言っていたな。経験は浅いだろうが、士官学校で学ぶ剣術以外の技には興味がある。
「レギュレーションは?」
 私は教室が遠かったので、先に座っていた知り合いに尋ねる。
「いつも通り。でも傭兵さんの方にはナシ。向こうは使い慣れてない剣だし、ハンデ代わりでしょ」
「そうか」
 騎士たるもの、いかなる時も、相手が誰であろうと、誇りを忘れぬように、という事か。
「始め!」
 その試合は一瞬で終わってしまった。エルーンが少女を背後から突き飛ばすという、レギュレーション違反を犯したからだ。
「えーあれは無いわー」
 生徒からはブーイングの嵐。
「彼はいつもこうなのか?」
「んな訳無いでしょ。こんな反則ばっかりだったらテストの点が付かないよ」
 それはそうだな。では一体何故。
 三回勝負の三回とも、開始早々にエルーンは反則負けする。ドラフの少女は礼を言って引っ込む。勝ったのにとても悔しそうだった。
「――さん! また貴方は!」
 ぞろぞろと観客席から人が退出する中、一人の教官が闘技場の中央へ進む。
「レギュレーション違反とか何をやってるんですか!」
「だってあっちは何でもアリじゃないですか」
「当たり前でしょう! 先方は此方のルールを知らないんですから――」
「そう、それです」
 珍しくはっきりと応えた声は、私の座った場所まで良く響いた。
「実戦でルールなんて無いでしょう?」
「いいえ、あります。軍隊という集団で戦う上では、ルールを守らない者は足を引っ張ります」
「今回は一対一の白刃戦ですよ? それに、僕は彼女が手合わせしたいって言ったから受けただけで、こうやって皆に見てもらうなんて聞いてな――」
「ええい、口答えしない! まったく、貴方はアルビオンの恥ですよ。此処の生徒として相応しい振る舞いをする気が無いなら出て行きなさい」
 そう捨て台詞を吐いて、教官は肩を怒らせながら退出する。
「……そうします」
 そして彼も、俯いて闘技場のリングの上から降りた。

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