宇宙混沌
Eyecatch

嫌と言うまで [4/7]

 あたしが思い上がっていただけなのかもしれない。プロポーズされたんだって、勝手に思い込んだだけで。
 もっとちゃんとドナの忠告を聞いておくべきだった。新しい家族も作れない相手と一緒になるなんて、下心があるかもしれないってなんで見抜けなかったんだ。
 そりゃあ、ドランクにとっては気楽だし都合が良いだろう。あたしが居れば仕事は捗るし、夜の相手も困らない。あたしはブランド物も強請らないし、自分の事は自分でする、安く済んで手のかからない人間だから余計にだ。
 それからあたしはドランクの誘いを断るようになった。暫くは定期的に営みを試みていたドランクも、春頃には諦めてただ隣で眠るだけの人間になった。
 ただ二人で仕事をする事だけは、次々に予約が入る事もあり、なかなかやめられなかった。とにかくその年は、いつになく忙しかった。
 ほんの僅か、夏に連休が取れた。ドランクはアウギュステに行きたいと言うに決まっている。
 そして、そう言うなら、行ってやっても良い……。そう思っていたのに。
「今度のお休みなんだけど」
「ああ」
「僕、ちょっと行きたい所あって」
「構わないぞ」
「そう? 良かった。じゃあ○日にガロンゾのいつものお店で待ち合わせね」
 あたしは切っていた肉料理から視線を上げる。
「何処に行くんだ?」
「内緒」
 ……一緒に過ごすんじゃなかったのか。そして、行き先も教えてくれないんだな。

 待ち合わせ、と言ったのだからそのまま居なくなるはずはない。そう考えてもそうは思えなかった。
 あたしは乗り合い騎空艇の隅から、何列か前に座っている青い髪を見つめる。結局、あたしの連休は奴の尾行で潰れる事になった。
 バルツからそこそこ離れた島に着くなり、ドランクは街を素通りして森へ。人気も減り、バレないように尾行するのも一苦労だ。
 途中、大きな屋敷があった。あまりの大きさに見上げていると、ドランクを見失う。まずい、此処からじゃ一人で街に帰れない。慌てて辺りを見回すと、背後でパキリ、と枝が踏み折られる音がした。
「ドランク!」
 見知らぬ森で迷子になるくらいなら、尾行がバレる方がマシだ。そう思って振り返ると、そこには、青い髪の――中年のエルーンが、お付きの者を従えて立っていた。
「うちの敷地で何をしている?」
「あっ、その……人を探していて……」
「人を?」
 まずい、私有地だったのか。完全に怪しまれている。
 エルーンの男性は溜め息を吐き、ポケットから財布を出した。
「物乞いなら素直にそう言いなさい」
「そんなんじゃ! ……」
 否定してから、ボロボロの戦闘服であることに気付く。勘違いされても仕方ない。
「あの、本当にお金は結構です。あたしは、この森の中に入っていった男を追っていたんです」
「ふむ。警備の目を盗んでか」
「警備? 見かけませんでしたが……」
「なるほど、配置を知っているのか。いや、人手が足りていなくてね。それで、その人間との関係は? 窃盗の共犯なら、見逃すわけにはいかないね」
 今のあたしは怪しさ満点だろう。正直に話すしかない。
「仕事の相棒なんです。久々の休みなのに、滞在先を教えてくれなかったから、気になって」
 エルーンは口髭を一撫でしてから、呟く。
「傭兵……ドランク……スツルム&ドランクか?」
「はい。あたしが、スツルム……」
「そして、青い髪のドランク」
「ご存知で?」
 そう言って改めて男性の姿を見る。青い髪に、黒い耳のエルーン。
「君達は十分有名だ」
 男性は付き人に、森に入って行ったドランクを捕まえてくるように指示する。
「暑いし、彼が来るまで中でお茶でも?」
「あ、でも、つけて来たこと知られたくなくて……」
 あたしは今、ドランクに会いたいわけじゃない。
「ドランクが何処に行きたかったのか、知りたいだけなんです」
「待っていれば判る」
 男性は屋敷に向かって歩き、手招きした。
「ソファの後ろにでも隠れていなさい」

闇背負ってるイケメンに目が無い。