宇宙混沌
Eyecatch

嫌と言うまで


 ドランクと旅を始めて一年が経とうとしていた。宿のテーブルにはクリスマスケーキの空き箱がそのままになっていた。ドランクは街の浮かれた雰囲気に酔ったのか、いつもよりも事を急いだ。
「嫌、だ」
 ドランクの耳がぴくりと動いて、膜を張ろうとしていた手が止まる。
「ごめん、今日体調悪かった?」
「いや……」
 否定を拒絶の繰り返しと捉えたのか、ドランクは青ざめて体を離す。慌てて補足した。
「体調は悪くない。ただ、ちょっと……」
「そっか。気分じゃないならやめとこ」
 共寝は最早日課のようなものだった。体調不良や仕事の都合以外の理由で、体を重ねなかった事は無い。喧嘩をしても眠る前にはこれで仲直りをしてきた。
 若くて体力が有り余っている所為もあるが、傭兵といういつ死んでもおかしくない立場が、今日この機会を失う事を必要以上に恐れさせた。子供が居れば形見が残る。いつしかそんな考えに取り憑かれていた。
「その、ゴムが嫌だ」
「ええ?」
「生でしたい」
 案の定、ドランクは困った様に眉を下げる。目的があって旅をしているドランクにとっては、子供は邪魔だろう。
「異種族だから、別に子供は出来ない」
 あたしの口も、随分と都合の良い言い回しができるのだなあ、と感心する間もなく、ドランクが返す。
「それはそうだけどさあ」
 それはそうだけど。
 あたしは思わずドランクの顔を睨んだ。
「ど、どしたの?」
「……何でもない」
 知ってたのか。
「やっぱり今日はやめとこ? ほら、お風呂は一緒に入る?」
 曖昧に頷けば引きずられるように浴室へ連れて行かれる。もたもたしていると、先に用意が出来たドランクが湯船に湯を張ってくれた。
「来年の夏も行きたいよね~海」
「まだ年も明けてないのに」
「いや~、波の音思い出しちゃって」
 二人で浸かると湯の半分以上が床に流れる。その音に耳を傾けている男の隣で、聞かせるつもりはなく呟いた。
「子供欲しくないのか」
「出来ないものは仕方ないし、僕は居ない方が気楽だからね」
 しかしエルーンの敏い耳はそれを拾い、応える。
 湯が一通り流れ出て、嫌な無音が反響した。
「スツルム殿?」
 振り向いたドランクの表情が引き攣る。その時のあたしは、一体どんな顔をしていたのだろう。
 何かも解っていたつもりだったのは、あたしの方だった。

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