宇宙混沌
Eyecatch

大人の恋


 好きだと言っても大丈夫だと信じてドランクは言ったのに、首を横に振ったのはあたしじゃないか。あたしがそれが嘘と言っても大丈夫だと信じて、伝えて、ドランクは本当に怒らないだろうか。まだ待っていてくれているだろうか。
 結局あたしがドランクを信じられていないだけだ。頭では解っていても、信じろと言われて信じられるなら苦労はしない。素直になれと言われてなれるならこんな自分になってない。
「送ってくれてありがとね~ん」
 ドランクは離陸するグランサイファーに手を振る。
「さて、やっぱり天気悪いねえこの地方。明日にはマシになってると良いけど」
 振り向いたドランクは、あたしの顔を見て眉を顰める。
「あれ? どうしたの? クマできてるよ?」
「久々の夜の艇旅で、眠れなかった」
「あらまあ。宿取って早めにご飯行っちゃおっか」
 また一つ嘘をついた。やはり、嘘というのは一つつけば、それを見破られない為のものをいくつも繋げていくことになるから良くない。ここで断ち切らなければ。
「こっ、この前の!」
 雨で髪が濡れないよう、フードを被って歩き出していた相棒が足を止める。
「幼馴染と約束があるって、嘘、だったんだ」
「へ? 今更?」
 間の抜けた声色に、心臓が高鳴る。
「そんなのすぐ判ったよ~。だってあの後もスツルム殿、単独行動する素振り全然見せなかったし。嘘じゃないとしても予定キャンセルになったのかなって」
 続く言葉にホッとした。ということは、結婚の約束だとは思わなかったのか。
「でも、ちゃんと言ってくれてありがとね」
 ドランクはあたしのフードも被らせて、町に出る。
 でも、だとすると、ドランクはあたしから答えを聞き出すことを諦めていないんじゃ?
 思わず足を止めたあたしに、二歩先に進んでからドランクも立ち止まる。
「何か気になるお店でもあった?」
「いや……」
「今日はもう予定無いし、遠慮しないで。宿なり喫茶店なりで待ってるからさ」
「遠慮なんかしてない」
「そう?」
 なら、とドランクはまたあたしの隣に並んで歩き始める。あたしも歩を進めた。
「スツルム殿、あんまりこうしたいああしたいって言わない方だからさ。流石の僕でも時々わからなくなるよ」
「……そうなのか?」
「エスパーじゃないからね~。もっとも、スツルム殿は自分の気持ちに気付いて、それを行動に移せるまで結構時間がかかるタイプかなって思ってるから、僕もあれこれ気を遣ってるんだけど……」
「気を遣って訊いたのか?」
「へ?」
「その……好きかって……」
「ああ、あれは」
 いつの間にか雨は小降りになっていた。雲の隙間から射してきた陽光で、山の上に薄っすらと虹が見える。
「つい言っちゃったから、この際訊いちゃうかと思って。スツルム殿にその気が無いなら忘れてほしいな」
「…………」
「そうじゃなくても今すぐどうこうしたいとか思ってないから、スツルム殿の心の準備が出来るまでいつまでも待つよ」
「……呑気な奴。お人好し」
 いや、やっぱりドランクはあたしがどうしたいかまで解っていて、だからこそ自信があってのこの発言だ。なんとなくムカつくので剣を抜く。
「ええっ!? ちょっと、なんで刺すの!? どう考えても今刺すタイミングじゃなくない!?!?」
「うるさい」
 一通り刺し終わって一息つくと、虹を背景に、いつか見た大切な笑顔が輝いていた。

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