坑道のカナリア [4/4]
その日の夕方に僕は無事救助された。最初の大規模な落盤は村にまで音が響いていて、島にたまたま滞在していた騎空士達も総出で救援活動が始まっていたらしい。
村では満足な治療が出来ないかも、という事で、僕達は騎空士の艇でエルステ帝国の首都、アガスティアまで運んでもらった。僕の診察結果は肋骨の骨折に、足首の捻挫。他にも打ち身や擦り傷が多数。
当然、僕は暫く休業を余儀なくされた。持病があると伝えると、合併症を心配されて暫く入院させられたが、数日後には退院して、そのままアガスティアの宿に滞在する事となった。
「ただいま」
「おかえり」
スツルム殿だけでバルツに帰って良い、と僕は言ったのだが、結局彼女もアガスティアに滞在している。一人で出来る仕事を熟したり、僕の代わりに図書館で本を借りたり返したりして過ごしていた。
「調子はどうだ」
「痛み止めが良く効いてる」
僕は読んでいた本を閉じる。スツルム殿は僕が借りてくれと頼んでいた本をベッドサイドの棚に置き、自分のベッドに腰掛けた。
「もう普通に喋れるか」
「うん。おかげさまで~」
床に届かない足をぶらぶらさせていた彼女が、やがてその動きを止める。
「……大事な話……」
僕が勿体ぶったからだろう。スツルム殿は不安げな表情で僕の顔を見る。
「ああ、それね。やっぱりまた今度で良いかな」
「は?」
いつもの癖か、スツルム殿は僕を突こうと剣を取り出したが、僕が怪我人だった事を思い出したようで手を止める。かと思いきややはり鞘から抜き、何故か僕に渡してきた。
「え、なになに?」
「これ、お前に預けてたやつだが、何か変な事したか?」
「別に何も?」
まあ、救助が来るまでぐしゃぐしゃと泣きながら抱いてたけど……。
「そう、だよな……」
「どったの~? 何か具合悪いの? その剣だけ?」
「ああ……。手に馴染まない」
それは困ったなあ。僕は渡された剣を手に取り、まじまじと見る。ほんの僅かだが、水の魔力が感じられた。
「あ……これ、僕の魔力が移っちゃってるかも……」
「何?」
普通はありえない。魔力を移そうなんて考えず、ただ抱いてるだけで魔力を物に宿せるほど、僕の魔力が強いとも思えない。
「うーん、付いちゃったものは仕方ないね……。スツルム殿は、少しだけ火の魔力を持ってるみたいだから、相性悪いだろうねえ。どうする? 買い替える?」
「いや……使う」
スツルム殿は剣を仕舞う。
「慣れない武器だと危なくない?」
「使いこなしてみせる……。お前だって、水だけじゃなく火も使うし、どっちでもないあの切り裂くやつも使ってる」
「僕はどれも道具で増幅してるところはあるからな~」
水と火は宝珠だし、切り裂く風は代々伝わるフラスコの中の液体だ。僕も、魔法を勉強するまでそれぞれが何なのか良く解っていなかったけど。
「……その分練習すれば良い。怪我が治ったら、また相手してくれ」
「もっちろん! と言いたいところだけど、最近のスツルム殿、本当に剣捌きがキレッキレだから真剣で練習相手するのちょっと怖いな……」
「あたしがお前に間違えて当てた事あったか?」
「ございませんね」
僕が口を尖らせると、スツルム殿が少しだけ笑う。
「今度はあたしが、この剣でお前を護るから」
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