囀り [3/3]
一度目の啄む口付けの後、二度目で絡ませる前に、ドランクは問うた。
その次、あたしの背中を敷布団に押し付ける前にも、確認があった。
寝間着のシャツのボタンを外す時も、鎖骨に吸い付く前にも。体の上を這い回る手が嫌じゃないかも。
だってドランクにはあたしの気持ちがわからないから。
そしてあたしも彼の真意なんて、知らない。
あたしとずっとしたかった。その言葉からは、気持ちなんて読み取れない。あたしの事が好きだから、じゃないかもしれない。いや、ただドラフの胸を触ってみたかったとか、そういう欲に直結した何かである可能性の方が高いだろう。
だから試してみたのだ。
「や、だ」
彼があたしの中を弄る前に。あたしの心を丸裸にする前に。
「……じゃあ、ここまで」
そんなに真剣な表情を見たのは初めてだった。ゆるゆるとあたしの体の上から手が遠のいていく。
「……違う」
背を向けて布団を被った背中に縋り付く。
「嘘、だから、して、良い」
再び腕が掴まれる。その後は一度も、ドランクは確認を取らなかった。
朝目覚めると、青い髪に半分覆われた顔が目に飛び込んできて驚いた。
ああ、そうだ、同衾したのだった。と寝転がったまま昨夜の記憶を手繰り寄せていると、ドランクも目を開く。
「おっはよ~スツルム殿~。うわーべたべたする。僕、昨夜もお風呂入ってないし、先にシャワー浴びて良い?」
いつもと変わらない口調。いつもと同じ笑顔。あたしよりも先にベッドを降りて、シャワールームに向かおうとする背中に苛立ちを覚えた。
しかし、考えてみれば当然か。こいつは遊び慣れているだろうからな。
「スツルム殿? 聞いてる?」
俯いて黙っていたら、耳元で言われて飛び上がった。
「ごめんごめん、そんなにびっくりしなくても。スツルム殿も汗かいちゃっただろうし、先に入る? 僕はどっちでも――」
「うるさい」
低い声で唸ると、今度はドランクの方が飛び上がる。耳を垂らして問うてきた。
「やっぱり嫌だったんでしょ?」
違う。でも、お前のその読めない言動が、怖くて、不安で。
結局どっちなんだ。
「朝起きて、まだ僕の隣にスツルム殿が居てくれて、僕はほっとしたんだけど」
「……そうか」
「ただタイミングの問題で、これから出て行こうとしてたんだったら、僕は止めない」
「……出て行ってほしいのか?」
違う、と小さく返ってくる。
彼は囀っていたのだ。あたしは青い癖毛に指を絡ませると、その嘴をそっと塞いだ。
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