第8話:号泣するジータちゃん [5/5]
「避難艇の準備を!」
「何処にあるんだっけ!?」
「確か後ろの方っすよ!」
「痛った~さっきので頭打った……」
艇の中はパニックになっていた。そう言う僕も冷静だという自信は無い。
とにかく宛がわれた部屋から出て、上になっている左舷の方に向かう。
「子供と客人から避難させろと、ラカムが」
背中にそっと触れたのはカタリナさんの手だった。直後にまた大きな揺れがあり、カタリナさんは僕のマントを掴む。
「僕は大丈夫。避難艇、全員乗れないでしょ?」
「……ああ」
カタリナさんは他の人には聞こえない様に、十五人乗りだ、と教えてくれる。半数以上はグランサイファーと運命を共にする訳か。
「避難艇の機能や動力も大した事無いよね?」
「高度を上げる事は出来ないし、速度もほとんど出ない。グランサイファーが飛んでいる間はロープで繋いでおいて、此方が落ちたら切り離す。近くの島まで飛べるか、一か八かだ」
まあ、それでもこの傾いた艇に乗っているよりマシだろう。避難誘導はカタリナさんに任せ、僕は操舵室を目指す。
操舵室の入り口では、団長さんが倒れていた。此方を向かせると、涙ぐんでいる。僕は不安を和らげさせる為に笑顔を作った。
「避難艇の方に行って。さっきの揺れで怪我した人が居る」
彼女は避難させなければ。年次で言えば下から十五人には入るし、団長の喪失は皆にとって計り知れないダメージになるだろう。
「……やだ」
意外な反応に、思わずラカムを見る。
そこには、騎空艇を墜とすまいと奮闘する一人の操舵士が居た。
「団長さん」
彼女が何を言って、何を言われたのかは察する。
「溺れるのは愛ではないよ」
僕だって本当は、真っ先にスツルム殿を探しに行きたかった。だけどそれは今すべき事じゃない。
彼女だって自分のすべき事は解っている筈だ。だからきっと生き延びる為の最善の行動を取ってくれる。そう信じている。
そう信じて、僕も自分が生き延びる為に動くのが、愛だと思っている。
「さあ、早く」
団長さんは唇を噛みながらも、僕の言葉を理解して立ち上がった。壁に手を突きながら艇の後方へ向かう。
「ラカム、原因は?」
「制御翼の故障か破損だ。一番後ろに付いてるやつ。オイゲンが見に行ってると思うが……」
「僕も見てくるよ。折れただけなら氷をくっつけて代用できるかも。あと」
また揺れて転びそうになり、言葉を切る。
「島に急ぐより、こっちに向かってる騎空艇との合流をしよう。彼女が予定通りの艇に乗れていれば、助けてくれるはずだ」
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