宇宙混沌
Eyecatch

第8章:号泣するジータちゃん [4/5]

「スツルムとドランクは結婚しないの?」
 ユーステス達が去った。あたしとドランクは、次の島で艇を降りたらさよならだ。
「それとももうしてる?」
 最後にあたしはジータと食堂で菓子を摘んでいた。何気無く、を装ってそんな事を問われる。
「……お前の言う『結婚』とは何だ?」
「へ?」
 問い返されて、ジータは目を丸くする。
「相手と一緒に暮らす事か? 相手と子作りする事か? 紙切れ一枚、役所に提出する事かもしれないな」
「ん、んーと……」
 ジータは少し考えて、ぽつりぽつりと答える。
「家族……家族を作ること、かな」
「じゃああたし達は結婚してないし、しないな」
 ジータは寂しそうな顔をしたが、赤の他人にそんな表情をされる筋合いは無い。
 その時、ガタン、と艇が大きく揺れた。テーブルの上の菓子が傾きに沿って床に落ちる。
「うわっ……」
「ちょ、これDoなってんの!?」
 厨房のローアインが慌てて火を消す。
「ラカム!」
 ジータは揺れる床の上を器用に踏みしめて、一目散に操舵室へと向かった。

「ラカム!」
 揺れが酷くなり、バランスを崩した私は操舵室の扉の所で床に這いつくばる。
「ジータ、避難用の艇を出せ。子供と客人から退避させろ」
「えっ」
 それって、つまり……。
「墜ちるの?」
 グランサイファーが?
「制御翼に魔物か何かがぶつかったみてえだ。バランスが取れなくなってる」
 ラカムも傾いた室内で、床に固定された机に脚を踏ん張って舵を握っていた。
「クソッ。群れは見えなかったんだがな。……右が下がってる。左舷から避難してくれ」
「わかった!」
 答えたのは、いつの間にか背後にやって来ていたカタリナだった。カタリナは返事をするなり、踵を返して駆けて行く。
「全速力で近くの島まで飛ばす。高度が上げられねえから、此処より低い島だと……あと十五分ってとこか」
 無理かもな。そう小さく呟いた言葉を、私の耳は拾ってしまう。
 グランサイファーが、今、墜ちる。十年先もあるものだと信じて疑っていなかったこの騎空団も、今日でお終い。
 いつもならこんな弱気にならなかったと思う。だけど今日はなんだか、失う事が怖くて仕方が無かった。
「……ラカムも逃げよう」
 最悪、艇が落ちたって皆の――ラカムの命があればまた空を飛べる。そう思っての言葉だった。
 緊急信号を押そうとしていたラカムは一瞬手を止めたが、そのまま発令してマイクを掴む。
「こちらグランサイファー号。――群島西の――連絡航路上にて姿勢制御システムに異常、転覆の可能性あり。――島――港への緊急停泊を試みる。姿勢回復及び高度維持の為、周辺を航行中の艇の支援を希望する。……幸い乗り合い騎空艇の定期航路上だ。お前も避難艇に移動しろ。じきに近くを飛んでる艇が――」
 他の艇から応答がある。望遠鏡で目視し位置を確認した、五分後には到着とのこと。
「ラカムも逃げよう!」
 もう一度言う。ラカムは振り返らなかった。
「馬鹿言え。俺はグランサイファーの操舵士だぞ」
 だから何なの。グランサイファーと一緒に墜ちるって言うの。
「子供から避難させろって言っただろ。お前も早く行け」
「団長さん」
 視界が滲んだ所で、後ろから腕を掴まれる。顔を青くしたドランクが、無理矢理という風に笑った。
「避難艇の方に行って。さっきの揺れで怪我した人が居る」
「……やだ」
 ドランクだって回復魔法くらい使えるじゃない。客人なんだからさっさと避難すれば良いのに。
「団長さん」
 ドランクが私の手を包み込む様に握る。
「溺れるのは愛ではないよ」

♥すると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングなどに反映されます。
※リストへの反映には時間がかかります。

Written by