宇宙混沌
Eyecatch

第8章:号泣するジータちゃん


「スツルムとドランクは結婚しないの?」
 ユーステス達が去った。あたしとドランクは、次の島で艇を降りたらさよならだ。
「それとももうしてる?」
 最後にあたしはジータと食堂で菓子を摘んでいた。何気無く、を装ってそんな事を問われる。
「……お前の言う『結婚』とは何だ?」
「へ?」
 問い返されて、ジータは目を丸くする。
「相手と一緒に暮らす事か? 相手と子作りする事か? 紙切れ一枚、役所に提出する事かもしれないな」
「ん、んーと……」
 ジータは少し考えて、ぽつりぽつりと答える。
「家族……家族を作ること、かな」
「じゃああたし達は結婚してないし、しないな」
 ジータは寂しそうな顔をしたが、赤の他人にそんな表情をされる筋合いは無い。
 その時、ガタン、と艇が大きく揺れた。テーブルの上の菓子が傾きに沿って床に落ちる。
「うわっ……」
「ちょ、これDoなってんの!?」
 厨房のローアインが慌てて火を消す。
「ラカム!」
 ジータは揺れる床の上を器用に踏みしめて、一目散に操舵室へと向かった。

「ラカム!」
 揺れが酷くなり、バランスを崩した私は操舵室の扉の所で床に這いつくばる。
「ジータ、避難用の艇を出せ。子供と客人から退避させろ」
「えっ」
 それって、つまり……。
「墜ちるの?」
 グランサイファーが?
「制御翼に魔物か何かがぶつかったみてえだ。バランスが取れなくなってる」
 ラカムも傾いた室内で、床に固定された机に脚を踏ん張って舵を握っていた。
「クソッ。群れは見えなかったんだがな。……右が下がってる。左舷から避難してくれ」
「わかった!」
 答えたのは、いつの間にか背後にやって来ていたカタリナだった。カタリナは返事をするなり、踵を返して駆けて行く。
「全速力で近くの島まで飛ばす。高度が上げられねえから、此処より低い島だと……あと十五分ってとこか」
 無理かもな。そう小さく呟いた言葉を、私の耳は拾ってしまう。
 グランサイファーが、今、墜ちる。十年先もあるものだと信じて疑っていなかったこの騎空団も、今日でお終い。
 いつもならこんな弱気にならなかったと思う。だけど今日はなんだか、失う事が怖くて仕方が無かった。
「……ラカムも逃げよう」
 最悪、艇が落ちたって皆の――ラカムの命があればまた空を飛べる。そう思っての言葉だった。
 緊急信号を押そうとしていたラカムは一瞬手を止めたが、そのまま発令してマイクを掴む。
「こちらグランサイファー号。――群島西の――連絡航路上にて姿勢制御システムに異常、転覆の可能性あり。――島――港への緊急停泊を試みる。姿勢回復及び高度維持の為、周辺を航行中の艇の支援を希望する。……幸い乗り合い騎空艇の定期航路上だ。お前も避難艇に移動しろ。じきに近くを飛んでる艇が――」
 他の艇から応答がある。望遠鏡で目視し位置を確認した、五分後には到着とのこと。
「ラカムも逃げよう!」
 もう一度言う。ラカムは振り返らなかった。
「馬鹿言え。俺はグランサイファーの操舵士だぞ」
 だから何なの。グランサイファーと一緒に墜ちるって言うの。
「子供から避難させろって言っただろ。お前も早く行け」
「団長さん」
 視界が滲んだ所で、後ろから腕を掴まれる。顔を青くしたドランクが、無理矢理という風に笑った。
「避難艇の方に行って。さっきの揺れで怪我した人が居る」
「……やだ」
 ドランクだって回復魔法くらい使えるじゃない。客人なんだからさっさと避難すれば良いのに。
「団長さん」
 ドランクが私の手を包み込む様に握る。
「溺れるのは愛ではないよ」

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