宇宙混沌
Eyecatch

第8章:号泣するジータちゃん [3/5]

「ば、バージンロード、」
 会場の準備をしていると、ベアトリクスがいつになく緊張した面持ちで僕を訪ねてきた。
「父親役で、エスコートしてもらいたい。お……ドランクに」
「構わないよ」
 他に頼めるのはバザラガくらいだろうが、狭い艇内で彼と並んで歩くのは難しい。僕に役が回ってくるのは想定内だった。
「でももうバージンじゃないでしょ」
「うわあああ、聞かなかったことにしてくれよぉ!」
「なに大声出してんの? ほら、お化粧するよ」
 廊下からゼタが呼びかけて、ベアトリクスは身支度へと連れられていく。僕は深く溜息を吐いた。
 父親か。僕には子供を持つ資格なんて無い。
 スツルム殿は望んでいるのかもしれない。でも若い頃散々生でしておいて授からなかったんだから、今更避妊を止めても授かれないだろう。彼女はきっとそれを確かめるのが怖くて、最近は毎回念入りに避妊具を確認する。
 仮に授かったとして、僕の罪に対する罰が子供に向かうんじゃないかと思うと怖かった。僕はこれまでに何人の子供を殺した? その内の何割で、子供本人に咎があった? 前者の答えは片手では足りず、後者の答えはゼロだ。
 愛する人との子供を持てない事が天罰なのだとしたら、それを受け入れよう。生まれた子供を罰として奪われるよりはずっと良い。
 それに、例え自分の血を分けた子供であったとしても、スツルム殿以外の人を愛せるのかどうか、僕には自信が無かった。

 ベアトリクスの結婚式は、急ごしらえの会場と料理と衣装だったけど、とっても素敵だった。ベアはエスコート役のドランクの腕を離れる時に感極まって泣いちゃって、ドランクが困った様に新郎のユーステスに引き渡していた。
 病める時も健やかなる時も。カタリナの問いに二人は誓いを立てて、レナが出してくれた花吹雪の中で微笑んでいた。
「あーんあっ、あっ、あっ……」
「ジータが一番泣いてるし……」
 式も終わって、後片付けをしていたら急に寂しくなった。ゼタがハンカチで顔を拭ってくれる。
「別に今生の別れって訳じゃないでしょ。たまに会いに行けば良いじゃない」
「そうだぞ! 住所決まったらちゃんと連絡するから、遊びに来いよな!」
 ベアトリクスは私とは反対にすっかり復活している。食堂の机の位置をてきぱきと戻していた。
「しかし、私達もいつまでも此処に世話になる訳にはいかないな」
「教官」
「癇癪玉に先越されたー」
「本音が出てますけど……」
 ずっと居て良いよ。私がそう言うのは簡単なの。でもそれは、相手に気を遣わせるだけ。
 だって解ってるから。ゼタも、イルザも、行き先さえ決まれば艇を降りたいんだって事。
「俺は残る」
 後ろからぽん、と頭に手が乗せられた。見上げると、プラチナブロンドの戦士が微笑んでいる。
「現時点でローアインのミートソーススパゲッティが最高だ。しかし旅先でそれより美味しいスパゲッティに出会う可能性も捨てきれない」
「すっかり胃を掴まれてんじゃない……」
 ゼタが呆れた声を出す。私は笑った。
「ありがとう、カシウス」
 十年先もこの艇に居てくれる? なんて、カシウスなら頷きそうだったけど、確認するのはやめておいた。

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