宇宙混沌
Eyecatch

第8章:号泣するジータちゃん [2/5]

「……だー!! 俺の貴重な休日に操舵室に集うな!」
「ラカムが部屋で寝てれば良いじゃない」
「俺は此処が一番落ち着くんだよ」
「操舵室は共用空間だと聞いたけど」
「談話室扱いして良いとは誰も言ってないだろ!」
「悪いとも言われてないよ?」
 僕が操舵室に赴くと、ラカムとユーステスが居た。ユーステス君は黙っていたのでラカムも気にならなかったみたいだけど、僕は五月蝿いから追い出したいらしい。
「そういやフェリちゃんを見ないんだけど」
「アオイドスのツアーについてった」
「へえ。アオイドスはいつ戻ってくるの?」
「ジータの誕生日の直前だな」
「じゃあ今回は会えないかな」
「そうかもな」
 淡白な返し。何か変だ。上の空というか。
「……ラカムってば、昨夜の事がまだ忘れられないんだ~?」
「っ! バッカてめえ、何もしてねえよ!」
「なんだぁ」
 カマかけにうまく引っかかる。反応からして一夜を共にしたけど、手出しはしなかった、ってとこかな。
「いや、良い事だと思うよ。団長さんギリギリ未成年だし、僕は初めての時スツルム殿の事泣かせちゃったし」
「一体何があったんだ?」
 ユーステス君に白い目で見られる。そんな目で見るなら仕返しだ。
「そう言えばユス君の昨夜の感想は?」
「何故知っている」
 おお怖い。益々目付きが鋭くなる。
「傭兵の勘……ってのは冗談冗談。ベアちゃんの顔に書いてあった」
 ユーステス君の顔にも、だけど。
「ああ……」
 ユーステスが頭を抱える。ラカムも何と言えば良いのか解らず、長い沈黙が訪れた。意外にもそれを破ったのはユーステス本人だった。
「あんな可愛い生き物が存在して、俺の好きなようにされながら俺の名前を呼ぶなんて幸福すぎて夜が明けたら反動で世界が滅ぶんじゃないかと」
「すげえ早口」
 ラカムは顔を引き攣らせ、僕は笑う。それさっきベアトリクスも「あの顔で私だけにくっっっそ甘いお菓子みたいなセリフを吐くんだぞ!? 朝起きたら槍が降るんじゃないかと思った!」って言ってたな、ゼタに。声が大きいよって一応諌めといたけど。
「良いなー僕もそういう初夜経験してみたかったなぁ」
「だからお前は何があった」
 ユーステスの問いには誤魔化し笑いで答える。
「で、ラカムはお楽しみは取っておくタイプだと」
「俺は別にそういう甘ったるいのを求めてるんじゃねえよ」
「じゃあ何を求めてるの?」
「……お前は何を求めてるんだよ」
 あたかも参考にしたいと言うかの様に、問い返す。
「僕はね、独りぼっちで自分勝手な僕を見捨てず、一緒に居てくれるスツルム殿には頭が上がらないの。スツルム殿が不自由無く暮らしていけるようにするのが僕に出来る事。共に生きていく事以外、何も求めちゃいないよ」
「独りぼっちか……」
 何か言いたげなラカムに補足する。
「皆には感謝してるよ。でも、違うんだよねえ。どうしてもスツルム殿じゃないと塞げない穴があるっていうか。君もそうでしょう?」
「そうだな」
 ユーステスに問えば、素直な返答がある。ラカムはまだ難しそうな顔をしていた。
「さて、そろそろ仕事に戻らないと。タダ乗りは申し訳ないからね」
「……俺達は艇を降りる」
 ドアノブに手をかけた時、ユーステスが意を決した様に言った。
「それを言いに来たんだ」
「えらく突然だな。組織の用事か?」
「組織はもう無い。降りるのは俺とベアトリクスだけだ。俺の故郷に弔いに行く事にした。此処で降りるのが一番近いんでな。急な話ですまない」
「……そうか。元気でな」
「もう旅はしないんだね」
「いいや」
 ユーステスはしっかりと言葉にした。
「まだこれからだ」
 ユーステスとベアトリクスの、二人の人生という名の旅路は。
「ふふ、そっかあ……。結婚式はしなくていいの?」
 ベアちゃんはきっと憧れていただろう。ユーステスはたっぷり悩んだ後に、答える。
「簡単なもので良い。開いてくれるか」
「当たり前よ。んじゃ、準備するか」
 ラカムが張り切って、僕を追い越して部屋を出る。
「ラカムは寝てよ。明日は出発なんだから~」
 本当は僕達も此処で降りた方が良い。これから向かう先は、秩序の騎空団の手の届かない場所だ。
 でも、待ち合わせがあるからそうもいかない。用事が済んだら蜻蛉返りすれば良いだろう。心配事は今日一日くらい追いやろうじゃないか。めでたい日なのだから。

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