第3話:勝者のディナー [4/4]
「いやー彼女強いねえ。あんな子何処で見つけたの?」
ブランシュの問いに、ドランクは答えなかった。腹の傷はブランシュの回復魔法で綺麗さっぱり治っている。
「良い加減機嫌直してよ。こういうルールの大会なんだから、ちょっと怪我するくらい」
「そう言えば僕、二回も刺してないんですよ。貴方の事」
ドランクはブランシュの言葉を遮るように言う。
「……そうだったね。君が出て行った後、ジェイドも僕の事を刺してから逃げたんだ」
「貴方はすぐにでも追いかけられた筈だ」
脇腹の傷は、刃を抜いて数秒後にはなくなっていた。こんな高速度で回復魔法をかけられるなんて。
「まあね。でも、二人共もっともっと死に触れてからの方が美味しくなると思って」
「やっぱり、食べたんですね」
ドランクは侮蔑の目を向ける。
ナイジェルが消えた後、ドランクはブランシュの隙を見ては家中の不審な点を捜索した。彼女の遺体は見つけられなかったが、代わりに妙な臭いのする作業部屋や、およそ一般家庭では使わなさそうな肉の解体用の刃物を発見した。全て魔法で巧妙に隠され、鍵がかかっていたが、ブランシュはドランクが魔法を使えると知らなかったのだろう。簡単な解除魔法で明るみに出来た。
見つけた物の用途についてジェイドに確認した所、彼は何かに取り憑かれているかのようにこう言った。
『弱き者の死を無駄にせず、強き者の生を永らえさせる為』
話にならない。そしてドランクはブランシュを直接問い詰めたのだった。良い意味でも悪い意味でも当時は無謀だった。容疑を認められた後どうするか、どうなるかまでは考えていなかったのだ。
ブランシュは微笑んだ。
「君もジェイドくらい柔軟な思考が出来たら良かったのにね」
「まともな神経してるって言ってほしい所ですね、そこは」
ドランクは立ち上がり、窓から試合の様子を見る。丁度スツルムが降参をしたところだった。
「あんまり反抗的な態度を取るなら、彼女を人質にしても良いんだよ?」
「人質にするなら、とっくにしているでしょう? 第一、貴方にとっては僕がこの大会を勝ち進んでくる事に意味があるんだから」
ドランクは挑戦的な笑いを見せた。
「お望み通り優勝してあげますよ。そして貴方を今度こそ仕留めて終わりにする」
異常者に喰われる犠牲者を出すのも、自分が誰かを殺めるのも。
しかしその為の方法は、未だに思い浮かんでいなかった。
「楽しみにしているよ」
自分の試合の為にドランクが踵を返すと同時に、ブランシュは自分の指を針で刺した。
「でも、またろくに戦わないならつまらないなあ」
ドランクは無視して部屋の扉に手をかけた。開かない。鍵をかけられた?
振り返れば、ブランシュが手を伸ばせば届く位置まで迫って来ていた。血の臭い、まずい。
「んっ!」
手で口を塞ぐ前に、顎を掴まれて口内に指を突っ込まれる。噛みついてやろうかと思ったが、余計に血が出るかもしれないと思うと出来なかった。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
ブランシュは指を引き抜く。大人しく、ただ黙って頷いた青い髪のエルーンに、満足げな表情を見せた。
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