宇宙混沌
Eyecatch

第3章:勝者のディナー [2/4]

「あっ! やっぱり居た!」
 大会三日目。試合が始まる前、リーシャは会場内で白髪のドラフを見つけると大声を出した。
「最近姿を見ないと思ったら」
 リーシャがつかつかと歩み寄る。今日も今日とて取り締まりをするモニカ達や、客席で待機するジータとラカムもそれを追った。
「ガンダルヴァ!」
「おう、リーシャじゃねえか」
「『リーシャじゃねえか』、じゃありません! 今賭け事してたでしょう? 違法です、やめてください」
「そう固い事言うなよ」
 ガンダルヴァは言ったが、賭けをしていた相手は秩序の騎空団が来たと見えるとスタコラサッサと逃げてしまった。
「あーあ。ったく、こちとら優勝するつもりで参加してるってのに、五回戦で負けちまってな。賭博でもしねえと気が紛れん」
「え、負けたんですか?」
 リーシャが意外そうに目を丸くする。
「ああ。バレンティンっていう傭兵風情にな。オレ様とした事が気迫に押されちまって」
「珍しい……貴方、死ぬまで降参なんてしないと思ってました」
「そりゃあ、嫁さんの顔を見てからでなきゃ、死んでも死に切れねえってもんだぜ」
 言われたリーシャが顔を真っ赤にして固まる。ラカムが腰を屈めてモニカに尋ねた。
「おい、随分親しげだが、一体どうなってんだ?」
 モニカは溜息を吐いてから答える。
「私にも経緯はさっぱりだが、いつの間にかガンダルヴァがリーシャの旦那面をしている」
「は?」
「リーシャも満更でも無いようだし、親公認の仲らしいから私は何も言えまい」
 一応最初に一度だけ反対はしたが、とモニカは肩を竦める。ラカムがジータを見ると、案の定新しい恋の噂に目をきらきらさせていた。
「そっ、そういう事は外では言わないでって言ってるでしょ!?」
 やっと言葉を紡いだリーシャがガンダルヴァを責める。ガンダルヴァがふざけて彼女の胸を掴むと、怒ってぽかぽかとその腕を叩いた。
「マジかよ……」
 ラカムは思わず呟いた。叫んで助けを求めない所を見ると、恋仲というのは本当らしい。
 しかし、こりゃ少し希望が見えたな。ガンダルヴァとリーシャの歳の差も相当ある。
「はあ、もう良いです。それより、気迫に押されたなんて嘘でしょう? 貴方、剣が無くったって素手で相手を打ちのめすくらいじゃないですか」
 ガンダルヴァの腕の中でリーシャが言った。ガンダルヴァは彼女を解放する。
「よく解ったな。そうさ、試合前に取引を持ち掛けられた。八百長も取り締まるのか?」
「我々は違法行為のみを取り締まる。賭け事と直接結びついていない勝敗の調整を咎めはしない」
 モニカが答える。ガンダルヴァは続けた。
「オレ様がそこから勝ち進んでも、次はスツルムって奴と当たるだろうと言っていた。そいつもお前らの仲間なんだってな」
 ジータが頷く。
「お前らがこの試合に参加している理由は聞いた。まあ、それだけなら負けてやる気にはならなかったな」
「じゃあ、どうして……」
「最後まで聞けリーシャ。それ以上勝ち進んで優勝しても、結局待つのは死だと言われた」
「どういう事だよ」
 思わずラカムが口を挟む。ガンダルヴァは人の目を気にするように周囲を見回した。
「人気の無い所の方が良い。たまには嫁さんの捜査に協力するか」
「だから! そう言うのやめてください!」
「私は客席に居なきゃ」
 ジータが言うと、ラカムが頷いて二人は離脱した。リーシャとモニカ、アオイドスとジャスティンの四人は、ガンダルヴァと共に外へ。
「この大会の優勝賞品が何か知っているか?」
「主催者持ちのディナーと、賞金だったか?」
 モニカの答えに、ガンダルヴァは頷く。
「半分は本当らしい。ディナーには招待される。但しそこで食卓に上るのは――」
 優勝者の死体だ。
 リーシャが目を見開いて、唾を飲み込む。
「バ、バレンティンさんが何故そのような事を知って……?」
「そこまでは聞かなかった。だが、この大会の歴代の優勝者が、大会後にぱたりと姿を見せなくなっている事に、言われて気付いてな。どうせ日陰者ばかりだ、ろくに行方不明者として捜索されてもいないから、誰も気付かなかったんだろうが」
「それで、貴公は信用したのか、彼の言葉を」
「思い当たる節があったんだよ。もう十五年、いや二十年近く前になるか? 趣味の悪い奴が居てな。やり口がこの大会とそっくりだ。その頃はまだ、モニカも秩序の騎空団に居なかったな」
 モニカは頷き、続けろと視線を送る。
「そいつは『白の亡霊』と呼ばれていた。俺と同じ白髪だという事しか手掛かりが無くてよ」
「んもぅ、どんな事をしていたのかを先に聞かせてください」
「せっかちなのは床の上でだけにしてくれ」
 言われてリーシャは赤面し、口を噤む。
「続けるぞ。そいつは孤児を拾っては、殺し合いをさせていたらしい。そして、勝った方を自分が食べる」
 モニカが顔を顰めた。
「一体何の為に……?」
「さあな。だが、残された子供の遺体や遺留品の状況から、その事はほぼ確定で間違いねえ」
 皆が言葉を失う。ガンダルヴァはリーシャの頭をぽんぽんと叩いてから、続けた。
「オレ様も秩序の騎空団を抜けちまったし、その後どうなったのかは知らねえが、この大会は十二、三年前から開催されているらしい。モニカが知らねえなら、最近は子供を喰うのはやってなかったんだろ」
「代わりにこの大会で殺し合わせ、その勝者を食べる事が出来るから、か……」
 アオイドスがまとめる。ガンダルヴァは頷いた。
「オレ様は食われる為に力を付けてきたわけじゃねえ。それに、主催者の気が変わらなければ、またこの大会は開かれる。一度今回の優勝者がどうなるか、様子を見てからでも遅くはねえと思った訳だ」
「しかし、そうするとまずいな……」
 モニカは唇を噛む。
「仮に仲間が優勝したとしても、主催者の元に行かせる訳にはいかなくなってしまった」
「今もこの建物の中の何処かには居るだろうよ。もしそいつが強いんなら、オレ様も興味があるぜ」
「というか、見つけて勝負を挑む気満々じゃないですか」
 リーシャが呆れた声を出す。
「まあ良いです。協力してくれるのなら、先程の賭博の件は大目に見ましょう」

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