「まさか付けられてるとは思わなかったなあ」
二人の足跡は少しだけ港に向かった後、明らかに僕の後を追っていた。確かにあの時は、接触者への対処に頭がいっぱいだった。
「これ、また引き返してないかい?」
アイザックが言う。僕が浮かび上がらせた足跡は、それぞれ逆の方向に二本ずつ伸びていた。
「うん。僕の様子を少し見てから、心配無いと思って帰ろうとしたんだろうね」
この先には取引現場がある。そこまで行かずに僕達は折り返した。
「また引き返してるな」
カシウスが笑った。その後はとにかく、ちょっと行っては折り返し、ちょっと行っては方角を変える、の繰り返しなのだ。
「うーん、何の動きだろうねえ、これ……」
「誰かが合流した気配も無いしな」
アイザックとスツルム殿も首を傾げている。既に商店街からも結構離れていて、周囲は細い路地と住宅ばかり。
「時々離れてるみたいだけど、基本的には二人で一緒に移動してるし……僕にも解らないなあ」
そこから先は人がやっとすれ違える様な道もあった。他の人の足跡に消されていて、続きを見つけるのに苦労する場所もあった。
根気良く魔法をかけ続け、もう暫く行くと、また似たような足跡が反対方向へ伸びていた。引き返したと見なしてそちらを辿る。
「またこの道かあ」
「狭いな」
「ごめんね。重なっちゃってると引き返してるのかどうか区別しづらいから」
「しょうがない」
路地を抜ける。周囲に広く魔法をかけ、続きを特定した。
「あんまり引き返さなくなったな」
スツルム殿に同意する。
「うん。でもこれ、多分迷ってるね」
方角は月も出ているし、山の影が見えるから判っていただろう。しかし、とにかく建物の並びが不規則だし、袋小路も多い。
僕達もちゃんと帰れるか不安になってきた矢先、漸く異変があった。アイザックが独り言ちる。
「誰かと合流してる……」
「サイズからしてドラフの男だな」
スツルム殿の言葉に頷く。
「さて……そろそろ見つかるかな?」
「ああ。お出ましだ」
カシウスの言葉に、僕を含めた三人が地面から視線を上げる。
「あ、皆……」
そこにはバツの悪そうに苦笑いする団長さんと、同じく申し訳無さそうに眉を下げたグウィンちゃんが、ドラフの男に連れられて歩いてきていた。